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7/197/207/21

2008.07.20 ライブエリアレポート

猛暑とでも酷暑とでも呼びやがれ、とばかりに太陽が照りつけた初日が終わり、つま恋は2日目を迎えた。早朝こそギラついた太陽がまん丸い顔を覗かせ、再び激しい体力戦を僕らに望まんとしているかと思いきや、10時頃からは穏やかな雲が漂い、フェスと音楽に「楽に行こうか、今日は」と語りかけてくれているかのような表情を浮かべ始めた。中日も会場には早くから多くの人が集まり、食事をしたり、オフィシャル・グッズの長い列に並びながら今日の過ごし方をワクワク語り合ったり、キラキラダラダラな汗をかきながら「朝ビール」を美味しそうに飲み干したり、いろいろなスタイルでフェスを楽しんでいる。他の2日間同様、この日も27000人が集まり、それぞれの生命がそれぞれのイメージでこの日に流れる音楽を感じ取る。みんなで同じ音楽を聴きながら、同じじゃないイメージを放ち合い、それが空に舞う。
オフィシャルTシャツの一つが背中に「81000分の1」と記してある(27000×3日間ということだ)。
「ひとつにならなくていいよ」という歌詞を生み出したアーティストが中心人物として動いている、「それぞれの1の素晴らしさと大切さを讃えるフェスティバル」が、この日も始まろうとしていた。

WISE

この日のオープニング・アクトは、ヒップホップ・サイドからWISE。10時50分にはステージ袖に回り、DJやスタッフを前に既にそこでフリースタイルのラップを始めている。これぞヒップホップ流のウォーミング・アップ。準備は既にオッケーだ。
11時から昨日と同様の挨拶と注意事項の確認があり、WISEが呼び込まれた。つま恋はさらにぐっと気温が下がり、風を強く意識できる天候になってきた。そんな過ごし易いフィールドに向かって、いたってクールなWISEが「やりやすそうです!」と笑顔で伝えてくれながら、飛び出していった。
線の太い、しかもとても青い声を持つWISEはつま恋という緑の街にとても似合う。
「みなさん、盛り上がってますか? 腹から一度声を出してみましょう! Say Ho!人と地球に優しいラップを目指しているWISEです」と元気よくMCしながら、そんなソロ・パフォーマンスに彩りが加えられたのが3曲目。apではお馴染みの歌姫Salyuが、先日リリースしたコラボ・ソングを唄いにやって来た。ラメで包まれた人魚のようなスタイリングでステージに泳ぎにいったSalyu。彼女特有の朝霧のような声が、WISEのボトムの太い声と相俟って、創造的な空気をフィールドに醸し出していた。
「昨日、つま恋に入って。ホテルでちょっと緊張していたんだけど、朝に近い時間に窓を開けたら満月に近い月が出ていて、緑もバーと広がっていて、地球ってマジ綺麗だなって思いました」と優しく無邪気に話しかけ、最後はパーティー・チューンでガツンとストロング・スタイルを見せつけ、WISEの「朝の集会」は終わった。


◆朝一でしたけどどうでした?基本的に夜中の人としては?
「(笑)そうですね、慣れてないですね。正直ちょっと緊張しましたけど、お客さんが温かく迎えてくれたんで凄い楽しかったっす。野外自体も経験少ないし、規模がデカくて、エコの考えてるフェスっていうことだからコンセプトもいいし、出れて嬉しいしアガりましたよ。あんまりラップを聴かないお客さんにも聴いて欲しいなっていうのもあったもので、頑張りました。今日は自分のラップをじっくり聴いてもらえてるっていう喜びがありました。ありがとうございました」

♪太陽の子供
♪Thinking of you
♪Mirror feat. Salyu
♪Shine Like A Star

Bank Band

この日も朝早くから、バックエリアに入場していた櫻井が、アコギをつまびきながら音楽と戯れている。
「昨日の夜?寝過ぎたぐらい寝てました。疲れたのかな?初日の前の日は寝付けなくて、26時過ぎに起きちゃったりしたんだけど、今日はぐっすり(笑)。安心? うん、初日が無事に済んで、安心もあったかな?昨日はいい気持ちになれたしね、今日も凄くすっきりしてます」と快活に話してくれた櫻井を中心に11時30分、Bank Bandの面々がステージに吸い込まれていった。
それにしても本当にみんなきっちりと時間に正確に動くアーティストばかりだ。いや、このフェスの空気がそうさせているのだろう。
ちゃんとしていなければ恥ずかしくなってくるような雰囲気が、このフェスのいたるところにはあって、何事にもジャストな対応をしていく。だからといって堅苦しいわけでは全然なくて、世界がこうなれば自然とコミュニケイションの摩擦が減りそうな、そんな雰囲気がバックエリアを支えている。Bank Bandの姿勢やリズム感もそんな中から生まれているのは明白である。ステージ袖ではコーラスの2人が細かい息継ぎのタイミングを確認し合っている。そしてオーケストラの4人が固く手を握り合っている。そんな出陣しようとするバンドを、KANが送迎せんとステージ袖までわざわざ来ている。
11時50分、満員のフィールドにBank Bandが放たれていった。1曲目はお馴染みの「よくきーたねー」というフレーズから始まる、あの曲だ。

※ソングリストは7/21のレポートに記載します。

Salyu

「本日のトップバッター、久々にこのつま恋に戻ってきてくれました。Salyu!」と櫻井からアナウンスされて、先ほどのWISEとのデュエットの時とはスタイリングが変わったSalyuが登場した。
「今年参加するにあたって準備してきたものがあります。それがこのドレスです。ap bank fesをイメージして提案し、作ってもらいました。あったかくて、すがすがしくて、このフェスにしかない柔らかくて凛とした雰囲気をイメージしたんです。このドレスはピンクのグラデーションがかかっているんですけど、今日は綺麗な夕焼けをみんなで観れたらいいね(笑)」とMCしたSalyuだが、きっと多くの人が、「そのap fesのイメージ、そのままSalyuだよ」と思ったことだろう。やはりこのフェスにSalyuは欠かせない。彼女が帰ってきたことは、今年のフェスにとって大きな意味がある――そんなドラマチックかつミニマムかつガラス張りのソウルとでも呼ぼうか、そんな天使の歌が響き渡った。
小林武史のピアノとSalyuの師弟コンビが放つ独特の音楽ハーモニーも、この日の快適な天候そのものだ。要するに「過ごしやすい音色」なのだ。


◆お帰りなさい。
「はい、ただいま。2年ぶりなんですよね。久しぶりにステージに立って、凄くいいフェスだなって、いいお祭りだなって改めて思った。去年でなかった分、改めていいところは変わってないしプラスされてよくなってる部分っていうのはたくさんあるし、オーディエンスとの関係性も、ミュージシャン同士の関係性も凄く距離が短いっていうか。それはフェスが目的としてるテーマとか精神みたいなものがひとつ掲げられてて、そこに集ってくる人達によるお祭りだからで。音楽を通じて互いの未来のヴィジョンを磨き合うみたいなね、そういう目的がしっかりしてるので」

◆Salyuの歌も凄く一人称の歌が多くて、ある意味このフェスも一人称にいろんな人が集まってきてるっていうところがあると思うんですよね。
「そうですね。やっぱりみんなが凄くあったかく迎えてくれたんでそう思いましたね。私今回はね、歌い切ろうと思ったの。曲が3曲あって普通だったら、“風に乗る船”でもっとみんなを連れてってあげようって舞台を走ったり、手を上げてみんなに歌ってと誘ったりしたと思うんだけど、今回は歌い切ろうと思ったんだよね。そう思って稽古も積んだつもりだったんだけど、舞台に立ったら違うことになってて(笑)。本当に楽しみにしてたっていうのと、凄く緊張感があったんですよね。これはap bank fesに限らず、私の最近の個人的なバイオリズムみたいなもんで……最近ステージに立つと凄い緊張感があって。いいことか悪いことかわからないんですけど、さらに1個大きくなる時なのかなと前向きに捉えてるんです」

◆そういう時にまたいつもと違う感じでapを経て、いい経験になりましたか?
「そうですね。ap fesは本当に尊敬を抱くアーティストの先輩方と、アンコールで一緒に歌うことができたりとか、Bank Bandの方と一緒に演奏できたりお話できたりとか凄くバックステージも開かれてるので。やっぱり凄いな!って尊敬しなおさせてもらえることって何よりも刺激だと思うんですよね。音楽を制作する身分として、尊敬ほど刺激的で確実なものってないかなって思うから、小田さんのステージにしろ、KANさんのステージにしろ、Mr.childrenのステージにしろ、アツくなるものがありましたね」

◆妹分として?
「ふふ。そういうふうに思います」

◆ありがとうございました。

♪iris〜しあわせの箱〜
♪風に乗る船
♪name

中村中

「大人になりましたね、Salyuは。ちょっと涙が出そうになりました。これは何心だろう?(笑)。では、中村 中!」と紹介され、ブーツにミニスカの中村 中が入ってきた。緊張感がぱっと生まれる。抱えた緊張感とこのステージかける思いの強さが、裸になって伝わってくる。歌謡曲もフォークもロックンロールも、いろいろな音楽を生々しく食い合わせたような独自にして懐かしいような曲が、ビシッと背筋の通った姿勢で歌われる。そう言えば、昨晩、ベーシストの亀田が「中村 中の音楽はね、とても本能的だから、本能的に弾けばいいものなんです」と教えてくれた。本王的な音楽ジャンクこそが、中村 中のオルタナティヴ・ポップである。
「暑い夏になると、虫が飛び回りますよね。でも夜になると、その虫は寂しく飛び回ります。私はそれは人間にとても似ていると思います。寂しい時だけ人間を求め尋ねていく人間のことを、可愛いなと思うからです。今夜もし、そんな寂しい人がいたら、私はその人の優しい光になりたいと思います」と静かに宣言し、“裸電球”を歌った。 トンボが沢山、中村の周りに集まって飛んでいたのが印象的だった。

自身で性同一障害であることを告白した中村 中だが、自身の混乱を冷静に見詰めている人間だからこそ「醒めた視線で見える本当の世界」があることを、見事な歌唱技術でもって伝えるアーティストである。しばしばタブーを打ち破るスタイルや生き方に焦点があたるアーティストだが、実は堅実な音楽鍛錬からすべてが生まれていることを、Bank Bandという確かな音楽集団とのコラボレーションによって証明したライヴとなった。
「10代の頃から私を支えてくれたお友達を呼んで、お別れしたいと思います」とMCして唄ったお友達=曲は、インディーの頃からずっと歌い続けている“友達の詩”。業の深い歌。人生を達観しているからこそ孤独だし、だからこそ人の気持ちがわかる師からのメッセージのような歌。
唄い終えた瞬間、両手を胸に合わせで安堵の表情を浮かべていた。


(インタヴュー直前に櫻井が来て――)
櫻井_「最高でした!」
中村_「ありがとうございましたー! 素敵なギターでした」
櫻井_「もうギリギリで(笑)」
中村_「嬉しい。気持ちよかったですよー。初めて<一緒に暮らそう>って歌詞がリアルに聴こえました」
櫻井_「そう! なんか今日凄いハモったよね」
中村_「あぁ一緒に暮らそうっていう感じがするって思って。皆さんもそう思ってくれたらいいなぁと思って。……ずっと一緒に暮らそう、結婚しようっていう話をリハーサルでしてましたよね?お客さんの夫婦がこれを聴いて、『妻にもう一度恋をしよう、つま恋』ってなったらいいなって話を櫻井さんとしてて」
櫻井_「はははは、リハの時にそんなMCをやったりしたんだよね」

(そしてインタヴューに入ろうとしたら、今度は小林武史の来訪を受けることになり)
中村_「小林さんから『君はカテゴライズされるのを壊していきたいタイプだから、壊そうとしてる君はとにかく歌ってくれてるだけでいいから』みたいな話をされたんですよ。そういう意味があって私は参加するのだなと思って」
小林_「はははは、最高だった。びっくりした。ap bank 史上に残るライヴだったです」
中村_「そんな! 楽しかったです」

(そしてインタヴュー)
◆祈るように歌っていたのが凄く印象的だったです。
「元々このフェスに参加する時に、やれ環境をとか何かを言うと、『じゃああなた達は環境を守ってるチームなんですね。我々は違うんですね』とか、学校生活でもあるけど派閥みたいになるじゃないですか。私はそういうのが凄く嫌いで、目に見えないルールみたもので凄く悩まされて生きてきたから。私なんかは舞台に立ってしまっているから、都合のいい立場で今の生き様みたいなものをまっとうするだけでいいけど、そうじゃない人も世界にはたくさんいて。ルールなんかないだろうに、そういうルールに悩まされてる人もいて、私はそれを壊したいなと思っていて。だから小林さんとかが『歌うだけでいいから』って言ってくれたのは、壊していってる君だからっていう意味だったと思うんですよ。だから私はそれをまっとうするべきだなと思って、真っ直ぐ歌っただけなんです」

◆変に理解してもらおうとか、共有し合おうっていうよりも、「私には大切なものがある。それを私は音楽で鳴らせます」っていうのを叩きつける姿勢が凄く印象的でした。
「そうですね。必ず、ゴミの他にもいろんなものを持って帰ってくれるお客様達じゃないですか。きっと全員が。だから本当に私は変なものだけ出さなければって、思ってました(笑)。どうやら大丈夫だったみたいですね」

♪駆け足の生き様
♪裸電球
♪友達の詩

GAKU-MC

「今日はいいね。暑過ぎず、いい感じで雲もあるので、音楽がスーッと届いて、伸びていく気がします。ですが、ここで一汗かきますかね(笑)。アゲアゲ系です、紹介します、GAKU-MC!」
まっ黄色なシャツを着込んだGAKUが出てくると、最前列のオーディエンスから「イエローモンキーだ」という声が上がる。たしかにそうかもしれないが、同時に「ひまわり」にも見える。そう、GAKU-MCは、Bnak Bandのひまわりのような存在だと思う。
実はとても透き通った声を持っているGAKUは、だからこそラップのみならず「いい歌」が似合う。 この日もバンド・サウンドと踏みまくった韻によるラップがピースフルに共鳴し、みんなにプレシャスな幸福感を伝えている。2曲目の後半ではタオルをびゅんびゅん回し、「27000人によるタオル扇風機」が風を起こした。
熱いぜ、しかし風も吹くぜ、なソウル・ショウを展開し、お馴染みの「櫻井&GAKU」の決めポーズを、そして固い握手を交わしてヒマワリはバックエリアへ戻っていった。


◆今年はapのラジオのパーソナリティを務めたり、責任と役割がさらに明確になったりもしていますが、2日間終わってどうですか?
「運動したあとのビールじゃないけど、我慢したあとの1品って美味しいじゃないですか。ap bankは去年の台風で見れなかったこととかチケットが取りにくかったこととかいろんな要因が重なって、櫻井くんやBank Bandがステージに上がっただけで昇天!みたいなね(笑)。それは実はお客さんだけじゃなくて僕らやるほうも、櫻井くんは<よく来たね>って歌ってたけど俺達もよく来たんですよ!って自分達を褒めたいみたいなね(笑)」

◆音楽を鳴らすほうが気持ちよくなってこそのコミュニケーションってありますもんね。
「1年振りに逢うBank Bandの人達も同じ時間を共有してきたので、みんなできあがってるみたいなね。そういう中で音楽を鳴らせるという喜びもひとつあって。僕GAKU-MCとしては、自分の役割が去年より凄く明確に見えてる気がする。野球で言うと1番バッターで、僕がチームプレイとして出塁することであとに繋げていくことだろうなぁって。ラジオをやることでいろんな人とのコミュニケーションがより深く取れていて、環境とか音楽のこととか去年より真剣に考えるようになってるし。個人的には子供が生まれて、今まで地球のこととか環境問題が『念のため』だったんだけど、『次の世代のために』ってのがより明確に見えてきて、月並みですけど子供って大きいなと(笑)。そんなふうにすべてが繋がった年なので、ひと潮です。明日も美味しいお酒を飲むためにも頑張ります!」

※ソングリストは7/21のレポートに記載します。

広瀬香美

「続きまして、息があがったまま、みんなあがったまま行きましょう!僕が大好きなシンガーです。一緒にやれて光栄です。広瀬香美さん!!」と櫻井に促され、「冬の女王」が夏のつま恋に降臨した。
90年代前半のポップ・シーンに活気をもたらしたハイトーン・ヴォイスの広瀬香美だが、実は冬以外殆んど活動をしないアーティストとしても知られている。だからこそ非常に貴重なアクトだったわけだが……
そんな大層な雰囲気を一切出さずに、しかも、昨日より過ごしやすいとはいえ、この真夏の野外で白いダウン・ベスト!!!???
真夏に有り得ないアーティストが有り得ないスタイリングで、さらに天から降ってきたような有り得ない高音ヴォイスで歌い上げている。そしてフィールドを煽る煽る。フィールドは内輪を右に左にと応戦。
ちなみにこの日としては貴重なピーカンが、この「ダウンベスト・ライヴ」の時間に訪れていた。自然のイタズラは、今日も冴えている。

広瀬_「私、夏に歌ったことないの! 私が冬の女王様だって、みんなご存知?じゃあ何でこんな真夏に唄っているのかって理由聞きたくない?」
客_「聞きた〜い!!」
広瀬_「優しい! ありがとう。ここ数年来、地球温暖化に伴い、冬が短こうございます」
客_「(大爆笑)それは大変だー!」
広瀬_「雪が溶けちゃうの、私困るんです。みんなが夏を好きなのはいいんだけど、このままわがままに地球を汚し続けると北極の白クマさんも南極のペンギンさんも、スライムみたいになって、大変な地球になっちゃうの。そして私、冬に歌えなくなっちゃうの。困るでしょ?」
客_「困る!困るー!!」
広瀬_「みなさんタオル持ってますよね?次、香美ちゃん、最後の曲なのよ!またスキー場でお目にかかりましょう!!冬の歌を唄うから、この1曲だけでもタオルで雪の花を咲かせてー!!“ロマンスの神様”!!!」
客_「うぉぉぉぉっーー!!!」

最高である。完璧な、本当に完璧なエンターテイメントとしての環境メッセージである。Bank Bandも大爆笑!
そしてダンサブルなディスコ・ビート・ポップを華やかに鳴らした。楽しいエコ、名曲を最高の演奏で披露――
初登場にして、ap bank fesの本質を一気に唄い語った広瀬香美は本当に本当に偉大で可愛い女王様だった。


「楽しく駆け抜けました。気持ちよく歌うことができて本当に楽しかったです」

◆白のダウンベストがさぞかし暑かっただろうと思ったんですけど(笑)。
「冬に仕事をしておりますので、その印象をどこかに持っていこうかとスタッフと協議いたしまして、皮ジャンは無理なので(笑)、ちょっと薄めのものでということで決定いたしました」

◆このフェスに誘われた時、冬に活動するというのがコンセプトのようにされていると思うので、夏に出るのはどうなのかなとか考えられたと思うのですが。
「随分考えました。何故に、私が?ということで、何度もスタッフに尋ねて頂きまして、『本当に私ですか?』と。櫻井さんから『生声を聴いてみたい』っていうひと言が伝わった時でしょうか(笑)、是非とも出演させてもらいたいと思いました」

◆素晴らしいバンドだったと思うのですが、一緒にやってみてどうでしたか?
「もちろん、これ以上集まることができないくらい日本では一番上手な人達が集まったというサウンドだったから、皆さんが本当に上手に演奏してくださったので、お歌が上手にちょっとはマシに聴こえたかなぁと思って」

◆「温暖化」、「冬」、「ap bank」と、すべてをバランスよく設定して面白いシナリオを展開させ、しかもメッセージにしているあのMCは相当考えられたものなんですか?
「はい(笑)。スタッフと一生懸命どんなこと言えばいいんだろうって。『寒いね』とか『風邪引いてない?』とか冬のMCしかわからないから、どうしようってみんなで考えて」

◆これからも積極的にいろんな季節に歌っていってください。
「ははは。そうかもしれないですね、ありがとうございます!」

♪愛があれば大丈夫
♪GIFT
♪ロマンスの神様

KAN

13時にBank Band第1部が終わり、約70分間の休息時間が訪れた。
天候に促されている部分もあるのだろう、とてもリラックスした穏やかな表情でゆっくり過ごすアーティストが多かった。ちなみにホスピタリティ・ルームの飲食エリアでのダントツ一番人気は「ブルーベリー搾りジュース」。
さあ、14時15分から第2部が始まった。最初のアクトは、去年も大盛況だったKAN。
櫻井と「パイロットとスチュワーデス」というユニットを組んでいることを含め、apフリークには顔馴染みのポップ・スターである。

が――。
どうなんすか、KANさん、その格好は………。

去年は去年で意味もなくアメフト姿で登場したが、今年はさらにシュールな「スコティッシュのケルト民族の正装、バグ・パイプ付き」という出で立ち。はっきりいって、存在自体が、どこまでシャレでどこまでがマジなのか、全然わかりません。
しかし、そこがミソなことをつま恋のオーディエンスはもうわかっている。それもどうかと若干思うが、シュールな出で立ちのKAN,を笑って受けとめ、そしてしっかり音楽は音楽で楽しみまくっている。
3曲目の前には「メイ・アイ・シング・ワン・モア・ソング?サンキュー・ベリー・マッチ!ムッシュ山木、シルヴ・プレ!!」と、何処の国のお方ですかぁ?なMCをかまし、さすがフランス人になりたくてパリに移住したことがあるKANさんなオーラを見せつけ、そしてあの曲を奏で始めた。そう、“愛は勝つ”だ。みんなの歌だ。心の底からの手拍子がつま恋を揺らす。
この日のここまでのアクトはみんな歌謡性、つまりみんなでシング・ア・ロングできる曲が多いのだが、その中でも圧倒的な神通力を持っている。さすが流行語にもなったタイトルの曲だ。ステージ袖では、大塚 愛が右手を突き上げながら、愛を勝たせていた。


◆あの格好はなんだったんでしょうか?
「あの格好はスコットランドのケルトっていう伝統的な正装ですが、去年同様それ自体に意味があるわけではないというか」

◆アメフトから何故スコットランドにいくっていう飛距離が凄く面白かったんですけど。
「まぁフェスの飛距離ですね、はい。あれは、今年の僕のバンドのツアーの衣装をフェス用にちょっと派手めにヴァージョンアップしたものなんです。暑くなかったか? でもそんなの、裸だって暑いですから! 同じだと思います。僕はこの規模のイベントって去年初めてで、今年2回目ですし、まだまだキチっといい演奏をやるっていうことしか考えなかったです。それ以外の余裕はないですね。でも、リハも含めて凄く楽しくはやらせてもらいました」

♪何の変哲もないLove Song(Bank Band ver.)
♪50年後も
♪愛は勝つ

大塚 愛

櫻井_「愉快なおじさんですねー。こってりめんたい博多味のKANさんでしたが、次は涼し気で可愛らしい女性を紹介します。大塚 愛さん!」
大塚_「“愛は勝つ”が流れたのでやって来ました!」

ずっとステージ袖で緊張しながら高ぶっていた大塚 愛が、アナウンスされると、喉を鳴らすように唾を飲み込んで、そして出て行った。きっと相当な覚悟をもって臨んだライヴだったのだろう。
そして彼女の曲の中で最もスピリチュアルで、脳内宇宙を刺激するバラード、“クムリウタ”が始まった。静かにして壮大な曲だが、Bank Bandのアレンジが原曲から殆んど変わっていない。逆に言えば、非常にこのバンドやフェスと相性のいい曲ということなのだろう。ナチュラルな質感で、しかしスペイシーなイメージが広がる音像。大塚 愛は心から気持ちよさそうにバンドの音色の上に乗っかって海を泳ぐように唄っている。
さらにもう1曲、「こんなにたくさんの素晴らしいミュージシャンと、こんなに素晴らしい人たちと一緒に過ごせるこの日に、私は恋をしています。地球is my home、たくさんの人がこの星に住んでいます。私もたくさんの愛をもって返したいと思います」と話しながら唄い始めた。小倉のギター・ソロが、曇り空を突き抜け、もっと高い場所まで吸い込まれていった。最後のほうでは花火が打ちあがる音がパーカッションの藤井から鳴らされる。
今日も自由だなあ、Bank Bandの音は。たしかにこんな音色となら、恋におちてみたくなる。

「おじゃましました(笑)」とペコリしながらようやく最後に笑顔を見せ、真っ赤な蝶のようなドレスを纏った大塚 愛が後ろへ飛んでいった――。


◆緊張されてましたか?
「はははは、バレてますね。袖にいて呼ばれた時に、『もう帰れない』って思って(笑)」

◆なんでそんなに緊張されてたんですか?
「私が音楽を聴き始めた時からの憧れた三大巨匠……小林先生と、亀田先生と、櫻井さんと、他にも凄いメンバーの方がたくさんいて。お客さんのムードも凄いあったかい雰囲気ができてて、私的には前の“愛は勝つ”でもう今日頑張った、もう終わっちゃったみたいになって(笑)。『どうしよう!? どうやって行けばいいんだろう』みたいになって(笑)」

◆今回スピリチュアルな曲を2曲やられてたと思うんですが。
「元々そういう曲をベースに、面白い曲とかもいろいろやってきたので。ベースになる曲を、こういう凄い人達に演奏してもらってそれに合わせて歌って……今日は凄い日になったなぁ、いや、でもやっぱり緊張するなぁ〜。今からもう1度出ろと言われたらもっと上手くできるかもしんない(笑)。はっはっはっは! でもまず出れたこと自体が自分にとっての学びでもあるし、刺激でもあるし、ご褒美でもあったので、自分の幅も広げられたような気がしてます」

♪クムリウタ
♪プラネタリウム

RIP SLYME



ステージにDJ台が運ばれてくる。次に誰が出てくるのか、一発でわかる。そのフィールドの空気に苦笑いしながら、櫻井が「もうわかると思うけど」と呼び込む。そう、リップスライムである。つま恋にフィットする聖なるストリングスの音色が鳴り響き、“One”が始まった。日曜の朝に教会にいるような、そんな雰囲気の音色の上を、リップがクールに暴れていく。「1という単位の中にあるすべてのことを」ラップする名曲によってヒップホップ・ショウが始まった。

「忘れられない夏を作っちゃってもいいですか?次の曲は来年、再来年とずっと思い出して欲しい曲なんですけど、モンゴル800ってバンドと一緒に作った曲を、今日はBank Bandヴァージョンでお届けしちゃってもいいですか?」とRYO-Zが言いながら、ザクザクしたギターのストロークが響いてくる。モンゴル800とは異なる、重量級のバンド・サウンドによる「HIP ROCK」。27000人の頭が前後に軽やかに揺れている。

「ステキなパーティー・ピープルたちに、ここで2つのお願いがあります。1つは『トイレットペーパーは1人頭1日9メートルまで』、これをお願いします。もう1つは、『もう1曲だけやっちゃってもいいですか?』。せっかくなんで、”楽園ベイベー“!!!」  鉄板、きたー。楽園、幸せを火薬にして大炎上である。スペイシーないろいろな音が鳴っている。DJ FUMIYAのスクラッチが、虫の鳴き声と絶妙なシンクロを起こしている。デジタルな音とアナログな音が折り重なりながら、結局は音を鳴らすのは、生きとし生けるものの最高のアピールなんだなと感じた。僕らも日々、音を鳴らして何かを訴えかけているのだろう。その意味においてつま恋の虫と僕らは同じ世界を生きる「生きるもの」である。


PES_「いやぁ最高ですよ。もうベロベロだし、俺ら昨日の朝の6時半ぐらいまで呑んでたんですよ」
ILMARI_「すぐ近くのホテルで馬鹿みたいに呑んでたんですよ。Bank Bandが凄すぎる上のプレッシャーに勝つためのドリンキングですよ」
PES_「あっそうだったんだ。それに俺が乗っちゃったん(笑)」
ILMARI_「でも悔いが残ってます、正直。“One”がイマイチだったから。今回のフェスは、RIP SLYMEは2曲だっていうことにしたいなぁと思って、結果的には」

◆“One”は何がダメだったの?
ILMARI_「ちょっと段取り間違えちゃったの(笑)。ストリングスは綺麗でしたねぇ。それがまた申し訳なさに繋がるんですよ。僕はミスチルも小林さんも大好きなんで。しかも亀田さんもいるじゃないですか。だから気負っちゃいました」

◆モンゴル800との曲をBank Bandでやったっていうのは、サウンドの装いも新たに、ボトムが太くなって楽しかったです。
ILMARI_「そうなんですよ。火曜日に沖縄行ってたんですよ。で(モンゴル800のヴォーカリストの)清作くんに会って。『実はapで“Remember”やるんだよね』って言ったら、凄く喜んでくれて。『櫻井さん歌ってくれるの?』みたいな感じになってて。あの曲があったことも凄いよかったし、櫻井さんとセッションできたことも凄いよかったです。もう本当に素敵なフェスですね。また呼んで頂きたいです」

◆“One”のリベンジはそこで。
ILMARI_「そうですね(笑)。是非!!!」

♪One(ストリングスVer)
♪Remember
♪楽園ベイベー

小田和正

2日目の最後のゲストである。圧倒的な音楽の力を放つ達人の登場である。
先に書いてしまうが、何しろハプニングからメッセージから何から何までがあまりにも満載なアクトだったので、出来るだけドキュメンタリーにレポートしようと思う。
まず1曲目、いきなり小田さんが間違えてしまった。

小田_「すみません、間違えました!もう一度やらせてください」
櫻井_「いくぞ!!」 
小林、大爆笑!
そして2度目の“Yes-No”が始まった。

「いっぱい間違えてすいません。こんだけ間違えるとは思わなかったです。この曲を書いた当時――もう30年ぐらい前の話ですけど、「きみを抱いていいの?」という、一見軟弱な歌詞が、週刊誌で『女子供の音楽だ。いい年してきみを抱いていいの?はねーだろ』と書かれました。それから30年経って、まだ唄っています。不思議なことに、年を取ると、いい年してこんな歌を、みたいなことは言われなくなりました。年を取るというのは、つくづくそういうことだと思います。えー、それでは、今をさること17、8年前ですかね、TVドラマで『“Yes-No”みたいな曲を書いてくれ』と言われて作りました。その曲をやりたいと思います」
そう、3曲目“ラヴストーリーは突然に”が始まった。
ここで小田さんは、「暴挙」に打って出た。ステージから降りて、PAブースの辺りまで一気にフィールドを駆け抜けていったのだ。一同唖然とし、我に返って大興奮。何しろ走る走る。ミック・ジャガーの如く走って唄う。しかもオーディエンスにマイクを向けて唄わせてもいる。大粒の汗を流しながらラヴストーリーではなく、“ロックンロール・ショウは突然に”と改名したくなる曲が鳴り響いた。
実はこれ、裏話がある。打ち上げで小田さん自ら披露されたエピソードだが、「実は昨晩、ASKAからメールがありまして。『ステージから降りた』というじゃないですか。ASKAを超えるにはどうすればいいかを考えまして、降りるだけじゃなく、できるだけ遠くへ行こうと思ったんです。実際にはもっと行こうと思ったんですが、みんなの手が伸びてきて、そんなに行けなかったです」ということだったらしい。
まだまだとっておきの話は続いた。

「ここからは極力、一所懸命、演奏に専念したいと思います。櫻井君との出会いは『クリスマスの約束』というTV番組を作らせてもらう時、最初の頃にミスチルの音楽を聴いて、なんかいい曲を、すごい曲を書いている若手がいることに嬉しくなりました。その時は自分が1人で唄いましたが、こうして今日一緒に歌えることを非常に嬉しく思います。“Tomorrow never knows”」
素晴らしいデュエットだった。小田和正の歌には実に獰猛なグルーヴ感がある。とても激しく鋭く言葉をスパッと切っては、再びガシッと繋いでいく。凄い歌唱法だ。小田和正の“Tomorrow never knows”と櫻井和寿の“Tomorrow never knows”がそれぞれの「明日なんか知ったこっちゃない」を唄う。小田さん、自ら謝っていたこと、この曲ですべて取り戻してました。勿論、お釣りもどっちゃりもらいました。
そして最後の曲の前になった。
「みなさん、ご存知の通り昨年は台風が来て流れてしまいました。こんなこと言うと大ひんしゅくをかうと思いますが、私は去年出演の話を聞いた時から『なんかヤバいなあ』という微かな予感がありました。リハーサルの時からなんか『う〜ん』という予感がありました。案の定、流れてしまいました。それでHPをずっと見ながら、現地はどうなっているのかなあ? とか考えていました。そしたら(ギターの)小倉君たちが、これから歌う歌を、みんなが集まっているキャンプサイトで歌ったっていうのを読みまして(去年のこのレポートのことですね。小田さんありがとう)、大層感動致しました。これはまた、機会を作ってもらって歌いに行こうと思いました。その曲を最後にやらしてください、“たしかなこと”」

放つ言葉が、まったくいらない、素晴らしいライヴだった。このライヴを観れなかった人でも、このエピソードを胸に、CDで聴くだけで完全に世界に入り込めると思う。それほどの圧倒的な楽曲を、さらに特別な歌としてつま恋に響かせた。もう、本当に多くの人が、幸せの涙を流している。凄い量の涙が大地に降り注がれている。
たしかなものがあるのか?ないのか?そんな答えは太古の昔から決まっている。「きみは空を見ているか? 風の音を聴いているか?」そう、一番大切なことは特別なことじゃない、何かを感じる気持ちを持っているか、そして自分で自分の気持ちの置き所を決めることができるか? そこにすべてがある。
ap bank fesはこの瞬間、去年小田さんから授かった“たしかなこと”を小田さんに返し、そして小田さんは新しいリボンで包んだ“たしかなこと”をap bank fesにプレゼントした――。


「えー、自分としてはいっぱい間違ってちょっと迷惑かけちゃったなっていう思いと、ステージから飛び降りたはいいけど、お客さんがいっぱいになっちゃったから、それも思うようにいかなくて演奏の足を引っ張ったなと思って」

◆他の昨今のフェスティヴァルと比べて音楽に凄く焦点が絞られたイベントだと思うんですけどその辺は小田さんにとってはどういうものでした?
「他のところとかあんまり知らないからなんとも言えないけど、小林くんみたいなのが真ん中にいるわけだから、おのずと始めからそういうふうになっていったんだろうなぁと思うのと、apっていうまた別の側面がはなからあるわけだから、それもないがしろにしないで音楽は音楽でかっちり作ってるっていうのはまた大変な苦労だと思うよね」

◆その辺は、ご自分の音楽活動の趣旨と並べても賛同できるものがありますか?
「そうね。僕はこんな大掛かりで大変だなぁといつも思うのね。それが一番。来てみてまたさらに、これ毎年やるのは大変だなぁって。去年か一昨年に『これ1年おきにやらないと疲れちゃうぞ』って小林くんに言ったことがあるんだけどね。続かなくなっちゃうのが一番つまんないわけだから、楽に続けるために負担をできるだけ軽くしたほうがいいんじゃないかなぁって。まぁまぁ奴らはまだまだ若いからね」

◆去年“たしかなこと”がap bank fesでメッセージソングとして歌われたところもあって、今年は“緑の街”がカヴァーされていて、なんでこういうイベントで小田さんの曲がこれだけ歌われていくのかっていうのはご自分にとっても不思議なことですか?
「それはあるね。誰がどう選んでっていうそこに至るまでの経緯は訊いてみたいような、訊かないでおいたほうがいいようなね(笑)。小林くんなのか櫻井くんなのか、いずれにせよあの2人がじわじわやってるんだろうから。最初“緑の街”って言われた時に、なんかの間違いじゃないの?って思ったの。それを俺と一緒に歌うのかな?って。リハーサルの時に3日のうちどこか1日で歌うのかと思ってたら3日とも書いてあるから、テーマになってるんだと思って。なかなかいい感じだって聴いたから、東京のリハーサルで聴かせてもらおうかと思ったんだけど、本番で聴いたほうが意味がわかるのかなと思って。今日、実際に聴いて、十分に合点がいくものでした。要するに、この場所でみんなで集まって、何年もやってきた場所に思い入れはあるわけじゃない? その場所に対して帰ってきたよっていう思いもあるはずだから、それで来年も、いつになってもここで待ってるからっていう思いがあるっていう、そこだったのかと思って。そこを掬い取ってくれたっていうのは、嬉しい」

◆小林さんとっては小田さんの歌は本質的なひとりひとりにダイレクトに伝っていく部分があるっていうのと、櫻井くんにとっては小田さんの独特の節回しとかいろいろ関心ごとがあると思うんですが。小田さん自身が2人にシンパシーを感じる部分はありますか?
「彼らは派手なことしないじゃない。ミスチルのアレンジも淡々と重ねていって上手いこと持っていくっていう。だけどどっかにチクっとするものが必ずあって、マンネリにならないっていうのはお見事っていうね。それで歌われると『あぁ』ってなるでしょ。重なっていく部分っていうのはあるんだなっていうね」

◆本当にアグレッシヴなステージングされますよね。
「アグレッシヴっていうか、ああいうふうにするしかないっていうかさ(笑)。淡々とあそこでカッコつけて歌うっていうことをしたとして、それでもいいかもしれないけど、お祭りなんだし真面目に終えるっていうことに対してはあんまり興味ないんだよね。もちろんちゃんと聴かせなきゃいけない部分もあるけど、それよりもあんな馬鹿なことして!みたいなほうが自分としては楽しいかなっていう。もうちょっと集中できるような、野外でも陽が落ちて明かりがついてっていう環境でやったらやり口はまた違うだろうけどね。みんな何考えてるかわかんないところで真剣に歌うのもいいけど、もっと伝わる方法があるのかなっていう」

◆また誘われたら出演されますか?
「なかなか拒否できるものがないねぇ(笑)。不祥事してまた引っ掻き回して、みんなで笑えて楽しく思い出にできれば。まだお前そんな曲書いてって言ってもらえて、取り上げてもらえて櫻井くんに歌ってもらえるような曲ができれば嬉しいし。若い奴に歌ってもらえるっていうのは、勇気っていうか気力ももらえるし。みんなを見ても頑張ってるなぁと思うしね」

♪Yes-No
♪キラキラ
♪ラヴストーリーは突然に
♪Tomorrow never knows
♪たしかなこと

Bank Band

この日もBank Bandの最後には“緑の街”が披露された。その前のアクトだった小田和正の楽曲ゆえに、「この日だけのスペシャル・セッションが始まるのでは?」と期待した人も多かったことと思う。
しかし、それは実現しなかったし、小田さんのコメントでもわかる通り、はなからそういうアイディアはなかったようだ。
では、その時、小田和正はどこにいたのか?ステージ横にあるモニターのPA卓の後ろで1人じっと目と耳を傾けていたのだ。自分はその時真後ろにいたのだが、とても声をかけられるような雰囲気ではない、なんとも言えない集中力を小田さんは放っていた。そして曲終わってからも、最後の挨拶まで一言も聞き漏らさず、しばし拍手をしてから肩をすくめ、Bank Bandのメンバーのところへねぎらいに向かった。とても素敵な後姿だったことを付け加えておこう。
この日もバックエリアに戻ってきたBank Bandの面々を、あたたかな拍手が迎えた。中には明日に出演する平原綾香やGLAYの4人までがいる。

櫻井に小田さんの話をすると――
「そう(笑)。よかった、特に今日は気持ちよくやれたから、“緑の街”を」と嬉しそうに言った。

※ソングリストは7/21のレポートに記載します。

the pillows

16時25分、さらに過ごし易くなった空気をタイトに引き裂くように、硬く、太く、シャープに歪んだ音が鳴り響いた。ザ・ピロウズのライヴが始まったのである。
最初の曲は――さすが、このフェスが何であるのかをわかっている。過去に何度もMr.Childrenがこの地で響かせるべくカヴァーした“ストレンジ・カメレオン”である。フィールドもいきなりのプレゼントにエモーショナルに反応し、早速ピーク・タイムが訪れた。
「the pillowsというロックバンドです。よろしく。今日はMr.Childrenのファンのみなさんに優しくしてもらいに来ました。Mr.Childrenのメンバーが僕たちの音楽を好きだと言ってくれているので、まさか君たちが嫌いなわけがない(笑)。いい時間を過ごしたい、よろしく!」とVo&Gの山中が強く言い放つ。
ロックバンドと敢えて言葉にするところに、彼らのこのフェスに向けた姿勢が伝わった。ステージの上も、今までと景色がまったく違う。総勢14名のBank Bandのセットはすべて片付けられ、4ピース・バンドのシンプル極まりないセットがだだっ広いステージのど真ん中に圧縮して集められ、そこから4人の一枚岩なサウンドが叩きつけられる。ロックバンドとしての最もシンプルかつリアルな衝動とタフさが、ある意味円熟さを加味した上で響いてくる。フィールドもそのテンションをガシッと受けとめようと切実なテンションで臨んでいる。
「the pillowsは19年もやってる長いバンドです。19年もやってると、様々な人たちに出会います。ミュージシャンの友達もたくさん出来ました。有名な方から無名な人までいますが、その中で最も才能があり、努力家の彼の歌を唄います。いい曲です」
そしてMr.Childrenの“つよがり”が鳴らされた。信じる音がある、だからこそ目の前にあるものを避けずぶつかっていくロック・サウンドによる“つよがり”は、タイトルの意味の逆を行く核心にして確信の1曲として響いてきた。
17時にロックが鳴り止んだ。汗も拭かずにバックエリアに帰ってきた4人を、まず櫻井が手を叩きながら迎えにいき、心の底からの笑顔でねぎらっていたのが印象的だった。

ちなみに打ち上げで「一昨年は遊びに来ました。そこで“終わりなき旅”に感動したことを思い出します。去年は台風で出演できず、この日を楽しみにしていました。ありがとうございました」というはっきりした山中の挨拶に、Mr.Childrenの4人が心打たれていたことを伝えておこう。

♪ストレンジ カメレオン
♪New Animal
♪No Surrender
♪つよがり
♪その未来は今
♪ハイブリッド レインボウ

Mr.Children

過ごし易い1日だったからだろうか、あとはMr.Childrenを残すばかりとなった夕方にみんなリラックスしながら、ちょっと早い打ち上げ感覚がバックエリアに漂っていた。たった1つの楽屋を除いて――。

スタッフの進行掲示板に一つの変更点が書いてあった。ある曲からある曲が昨日は繋がっていたのが、曲は区切ってMCが入る、ということである。
昨日のライヴが終わった直後、レポートした通り、4人と小林は深いミーティングをしていた。これはすべて“GIFT”をどう聴かせるか?というテーマの話だった。フェスが終わってすぐにリリースされる、現在のミスチルの一番のソウル・バラッド。オリンピック主題歌楽曲でありながら、「頑張る人を応援するのはどういうことなのか?」というテーマに真正面から向かった名曲をつま恋にどう響かせるのか? 桜井は今回のライヴのピークを完全にこの曲に絞っていた。だからこそ昨日のライヴでの展開に納得がいかなかったのである。

「どういう曲なのかをちゃんと話したほうがいいと思う。ギフトを贈るのは僕らであり、またお客さんでもあって、だからもっとみんなで歌ったり感じ合ったり出来る曲にしたい」

誰かがそんな話をし、そしてMCをすることになったのだ。

この日の開演直前、桜井に「展開は昨日の夜、ホテルで決めたの?」と聞くと、「いや、今(笑)。まさに今、楽屋で曲のアレンジの変更を決めた。MCすることは決めていたけど、曲のアレンジは決めてなかったから」。そう、たった1つの楽屋では今まさに新しいアレンジが生まれていたのだ。外から見るとさきほどからずっと田原がギターを抱えてライヴの時のように立って弾き続けている。

17時20分、臨戦状態のままステージ袖へ。桜井は腹に手を置いて声を張りながら叫んでいる。25分、JENのガッツポーズを合図にステージへ飛び出していった。
ひんやりという言葉がふさわしいほどの空気の中、緑に囲まれたつま恋には聖なる雰囲気すら立ちこめ、そこに桜井の「らららー」という歌声が木霊した。
何の歌詞や意味を持つ言葉じゃない、「らららー」や「うううー」という歌声。桜井の「らららー」は音楽として本当に強い表情を浮かべる。何故か?Mr.Childrenに支えられているからである。当たり前の話に聞こえるだろうが、この「Mr.Childrenだから」という理由は本当に大きい。ここでいうMr.Childrenとは、メンバー、小林武史、そしてメロディーとグルーヴ、さらに誰よりも何よりも街のどこにでもいるリスナーのみんな――そのすべてを含んだものだからである。これだけの素晴らしい気持ちに支えられたMr.Childrenという信念は、とてつもなく強い。
この力は意味やメッセージという理屈を超えて、世界とか時代とかを含んだ何かを変えるだろうという気持ちにさせてくれる。

さて、前述した問題の時間、“GIFT”の時間が来た。

「最後にとにかく、この曲を聴いて欲しくて。この会場、この景色の中で僕らが演奏し、みんなが笑いながらリズムとったり歌ってくれるイメージを持ちながらレコーディングしてきた曲があります。こうやって音楽を演奏できる幸せ。聴いてくれるみなさんがいる幸せ。そして聴いてくれる人がその歌を唄ったり口ずさんでくれる喜び、幸せ。本当にたくさんの贈り物を僕らはもらってる気がします。……最後にこの曲を通して、最高の、何か大事なものをプレゼント交換できたらいいなと思います」

こんな素晴らしいMCのあとで始まった“GIFT”は、昨日とは全然違うリアクションをもらった。最初からつま恋のフィールドのみんなにとって“GIFT”は、桜井のMCによって自分の歌になったのだ。今年のapは「言葉の要らないエコ・フェス」だと記したが、その「言葉じゃない、音楽なんだ」というために言葉、「説教やアジテーションのための言葉ではなく、音楽のための言葉」が音楽を育てるライヴを見た。

今回の選曲はとてもスピリチュアルだし、何よりダイナミックで、ライヴ感のある曲が並んでいる。Mr.Childrenは今、動物としてとても飢えているのかもしれない。
18時30分、本編のライヴが終わった。
その後、ステージ向かって右からSalyu、KAN、GAKU-MC、桜井、広瀬香美、大塚愛、中村中が並び、“to U”が披露された。曲を歌い終えたあと、桜井の「バンクバンドを紹介します」というアナウンスによってバンドメンバーも登場し、ステージからオーディエンス共々との記念撮影をして、7月20日の祝祭は終わりを告げた。
JEN_ 「(ライヴ終了直後に)やったー!今日のビールは美味いです!! 」

◆昨日のビールは?
「うん、味しなかった(笑)。昨日は“Hallelujah”から“GIFT”に繋げてやるっていう構成だったんだけど、それだと“GIFT”がまだCDが出てないしちゃんと説明してからやったほうが、心構えできるんじゃないかなって思って。よって“GIFT”の前に一旦締める。で、曲のことを話すっていうアレンジに変えたんですよ。それがドキドキで、小林さんの顔ずっと見てたら『お前今日泣きそうだった』って言われたんだけど、さっき。でもよかった。」

◆今回の選曲のテーマは?
「桜井がまず持ってきて、あとはみんなでちょこちょこ変えてった。個人的には今回は男っぽい、力強いナンバーなんじゃないかなって思ってます。フェスだからっていつもほんわかしたものじゃないっていうところで、メンバー同士の暗黙の了解はあったんじゃないかなと思ってます。明日、さらに育てます!」


田原健一_「いつもと同じ。あれだけのライヴがあってのMr.Childrenでしょう?ちゃんとやらなきゃって気持ちしか、もう出てこないんですよ。今日もそうだった」

◆直前までずっと楽屋に篭ってギター弾いてたよね。覗いてました。
「ずっと曲に没頭しているかもしれない。だって一番最後にやるって、凄いことだよー。上手くいかないと元も子もない、みたいな。だから、今日が上手く行ったとも思ってないです。空気はよかったし、でもそれは暑さがゆるかったからだと思うし、まだまだMr.Childrenはいい音を出せると思うし、音で伝えられると思ってます」


桜井和寿_「今日の総論としては、天候が過ごしやすかったっていうのは大きかったですね。お客さんももっと盛り上がろうと思えば、もっとアゲていけるようなパワーを感じられたから」

◆桜井くんがよく言ってる「80%ぐらいがベストコンディション」ってやつですね。
「うん。サッカーもそうだけど、ずっと100で動いてたら飛び出せないじゃない。あとはミスチルとしては2日目だから、気持ちだけでやって精度が低かった初日の反省も踏まえて、気持ちは満ちてるんだけど、演奏の精度、技術、歌、ピッチっていうところまでちゃんと集中できてやれたんで、凄くいい修正ができたんですよね。ひとつはピロウズが凄くいいライヴをしてたのを見たこと。ピロウズの気迫、あのハングリー精神をやっぱり自分達も持っていたいなと思うのがまずひとつ。でもそれを見たからって逆に僕らもガン!っていってやろうっていうほど子供じゃないんで(笑)」

◆今回のMr.Childrenのセットリストにテーマはあったんですか?
「ひとつはBank Bandが凄くあったかい、しかも選曲する時から歌っていうものがお客さんのところに届いてコミュニケーションできるのがいいって曲を選んでるんですよ。でもたとえば、凄い暴風雨の中でやろうとした時にその歌がどこまで届くかなぁと。いいじゃん、もうがむしゃらに暴れれば?っていうものもまた、凄く大事だと思うんですよね。がむしゃらの破れかぶれというか、それも音楽の素晴らしい要素だと。去年台風だったからなのか、どんな天気であってもやり通せる選曲にしたいとは思った。“フェイク”とかも雨が降ったら降ったでおいしいし、“雨のち晴れ”も雨降ったら嬉しいし、そういうものを選んでる」

◆JENが男らしい曲を選んでる気がするっていってたけど。
「どうなんだろうなぁ。“掌”は凄く主張がある曲でメッセージ性もあって……これは僕なりの意見だけど、全世界がエコに向かってひとつになってるところに、でも人間がCO2を排出してるから地球が温暖化に向かってるんじゃない?っていう意見もあるっていうのも、ひとつ信じれるものだから。みんなCO2の排出やめようよってなんでもかんでもエコのために向かっていくのも気持ち悪いなと思うので、そのことに関しても<ひとつにならなくてもいいよ>っていうメッセージを送れればなと思ったりしたんですよね」


◆2日間、かなり順調に終わりました。明日への抱負を。
小林武史_「だからね、明日で終わるっていう、よくあるこの惜別感とどう決着つけようかみたいなことなんだけどね、今思うのは。俺達も毎回、あれだけ練習して考えたアレンジが、たった1回で終わるのが忍びないんだよね。何回もやればいいってもんじゃないし、やってみたら1回がよかったなってこともあるかもしれないけど」

◆今回はBank Bandもミスチルも非常にバンド然としてるし、演奏してて楽しいフェスになってると思いますが。神経質になることもないですか?
「全然ない! むしろ櫻井がBank Bandの朝の練習をやめたことに神経質になって予習しようとか言ってたから、譜面の確認で十分じゃないかなっていってたら、実際そうで。実際にはやっぱりちょこちょこ間違えるんだけど、でもそれは音楽としても演奏としてもある意味当たり前のことだから、しらみ潰しに失敗探すわけでもないし。俺にとっては理想的な感じでやれてるかなぁ、今年は。明日もそれを続けるだけです(笑)」



残すところ1日。つとに贅沢な、でもとても普通で日常的な「新しい歌」をつま恋で聴ける最後の日です。
くれぐれも自己管理に気をつけて、あらゆる天候にアジャストできる自分をap bank fesに連れてきてください。
スタッフ一同、みんなで待ってます。

※ソングリストは7/21のレポートに記載します。

鹿野 淳(MUSICA


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