和田さんは、倉渕村で有機農業をはじめて10年目。倉渕村は、新潟出身、東京で学生生活を過ごした和田さんにとって、まったくゆかりのない土地だということなのですが、就職した「大地を守る会※1」を通して和田さんは倉渕村と出会い、退職後、この地に来て就農されました。
この倉渕村では、作物の品目別に部会をつくり、畑を見に行って勉強したり、意見交換をするなど、互いに支え合って、地域ぐるみで有機農業をおこなっています。また、村の外からの新規就農者へのサポートも行われているため、現時点で23軒の就農者が村外から入植し、この地で有機農業を営んでいます。
現在、和田さんが育てている作物は、インゲン、ズッキーニ、レタス、キュウリ、トマト、枝豆、人参、ニラ、エンドウ、オクラ、カボチャなど、自家用栽培の分もいれると、多品目にわたり、畑には様々な作物が育っています。畑に入っていくと、ヤギのリンがお出迎えをしてくれました。リンは畑にはえる雑草をムシャムシャと食べて、草刈りのお手伝いをしています。和田さんはリンからミルクを搾り、和田さんの奥さんがそのミルクでチーズをつくり、パンを焼きます。

ヤギのリンです。畑の草を食べています
自然との戦いが必須とされる有機農業は、その土作りから始めるため、就農してから数年は収入が安定しないという話をよく聞きます。しかし、和田さんの場合は、地域の方のサポートや、「大地を守る会」という買い取り手があったことが大きな助けになったということでした。
就農して10年にもなる和田さんですが「まだまだ。はやく一人前になりたい」とおっしゃっていました。来年からは、作物の品目を増やすのではなく、ひとつひとつの作物をうまく育てることに専念したいと言うことでした。

ズッキーニの畑。右に花が咲いていて、左が青々しているのは
収穫時期をずらすために栽培時期を調整しています

ズッキーニができています。左側には草が生えていて、
除草剤を使用していないことがわかります
有機農業は、全ては土からと言っても過言ではないほど奥が深く、土のなかの養分が少しバランスを崩しただけで、菌や虫が異常発生し、作物が病気になったり、虫に喰われたりしてしまい、台無しになってしまうのです。
お話をうかがいながら和田さんと一緒に畑を歩いていると、有機農業ということがどういうことなのか、何となくわかるような気がしました。
和田さんは、畑の横の草むらに、アゲハチョウの幼虫がたくさんいるのを見て「いやぁ〜。まいったなぁ。あんま増えてもらいたくないんだけど。子供は喜ぶんですよ〜」と笑っていました。虫は必ずしも敵ではなく、畑の健康状態をしるための、重要なサイン。有機農業は、その土地の自然を受け入れ、そこに自分が入っていく、その地に生きている生物に対しては、駆除を考えるのではなく、共に暮らす方法を見つけていく中から、自然のリズムを感じ、声を聞くーーーそんな関係の中にこそ成り立つものなんじゃないかなと感じました。
和田さんが有機農業をやっていて喜びを感じるのは、「育てたものがキレイにできたとき」「食べて美味しいと思ったとき」そしてなにより「大地を守る会の会員の方やお客さんが、農業体験に来てくれて、自分の畑で採りたての野菜を食べて美味しいと言ってくれること」だそうだす。大地を守る会で野菜を買うと、それぞれの野菜の生産者の名前と住所が書かれています。それを見てお客さんから「美味しかった」というファンレターをもらうこともあるんだそうです。「そういうのを、もらうと本当にうれしいんですよ」と和田さんはおっしゃいます。
最後に和田さんに、なぜこの土地を就農の地として選んだのかを訪ねたところ、「東京からそんなに遠くもないし、山がみえる景色もいい。それに、なによりも一緒にやっていける仲間がいるから」だということです。
今年の、ap bank fes’06では、大地を守る会から食材を取り寄せている出店者の方もいらっしゃいます。食べて、美味しいと感じたら、その「美味しい」をつくった人々のことを考えてみて下さい。一皿の食事から、いろんなところにつながっているんだと言うことに気がつくと、その一皿がさらに美味しく感じますから。

左から、和田さんの奥さん、息子さん、和田さん
カリフォルニアからの研修生と、栃木からの研修生
※ 1:大地を守る会は、有機・無農薬野菜から無添加食品、環境に配慮した雑貨などをお届けする会員制の宅配サービス「大地を守る会の大地宅配」を運営しています。インターネットで大地の野菜をお試し注文できます!(大地を守る会ホームページ:http://www.daichi.or.jp/)