ap bank fes'07 フードエリアレポート<前編>

eco-reso plus、そして14、15日の中止


7月13日のeco-reso+(plus)の中止の連絡が入ったのは、前日の夜だった。
大型台風が、沖縄、九州地方に大きな被害をもたらし、予報ではこのまま勢力を落とさず、日本列島を横断しながら通過するという。
13日、ap bank fesは3年目にして初めての試みを行うために、入念な準備を行っていた。14、15、16日のフェス3日間に加え、その前日にフードエリアをフリーで開放し、そこに出店されたオーガニックフードや、企画されたワークショップ、トークショーなどをゆっくりと楽しんでもらおうと考えていたのだ。
さらに今年はフードエリアも拡大し、koti marketというエリアが作られる予定となっていた。そこには雑貨の店舗が集まり、フリーマーケットも行おうと考えていた。



エリア拡大というのは、つまりap bank fesで伝えたいことが前年よりも増えているということである。一年一年と同じ場所で続けているからこそ見えてくるもの、伝えたい想いを、スタッフはひとつひとつ実現していくために、ここ数ヶ月、何度も打ち合わせを重ねてきた。出店者もワークショップもトークショーも、その数を前年よりも増やしているのは、その想いの数の現れだったと言っていい。
しかし、大型台風の接近の中、つま恋という里山の自然をそのまま活かして作られた施設でフェスを開催するには危険が大きかった。しかもap bank fesは環境をテーマとしたフェスで、公共の交通手段を勧めている。新幹線や飛行機といった交通手段も台風のため次々に運休となっている今、現地に来る、もしくは帰ることまでを考えれば、一日2万7千人の来場者を有するフェスを開催することは難しい。
予報では台風は15日に静岡県に上陸するという。



ほどなく、フェス本番の14日、15日の中止の発表がホームページ上でなされた。



たった1日のap bank fes’07前夜


雨が降りしきる14日の夜、最終日の16日は開催できそうだという知らせが入る。
前日の15日の午後、東京から掛川へと車で移動する。
出発時には東京にも台風が近づいていると思わせる強い雨と風が吹いていたが、高速で静岡へと向かう間に、空には晴れ間が見え、青空が広がっていた。どうやら台風はすでに静岡を通り過ぎたらしい。
夕方4時頃、つま恋に到着。台風一過で空の青も木々の緑もその色を一層鮮やかにしている。その美しさに今年もまた、つま恋に来れたという喜びが湧いてくる。
訪れた楽屋ではスタッフやBank Bandのメンバーが休んでいた。見かけた小林武史氏に「明日の開催、よかったですね」、そう伝えると、彼はこう笑顔で答えた。
「一日もできなかったら、何もなかったことになるから。本当によかったよ」
ap bank fesは、本当にたくさんの人の想いが作り上げるフェスだ。Bank Bandの人たち、参加するアーティストたち、フードエリアを作り上げる出店者の人たち、融資先の人たち、ワークショップの担当者たち、それを支えるスタッフの人たち、そして、そこに参加する人たち。誰もが、本当に豊かな未来を心に描いて、このフェスの期間を心に残る豊かな時間にしたいと願い、その想いがひとつひとつ繋がって作り上げられるフェスだ。
だからこそ、台風によって中止を決断することが、どれだけツライことだったかは想像に難くない。しかし、1日でも開催できるのなら、その想いを形にして伝えることができる。小林の言葉は、主催者としての想いが集約された一言だったと思う。
楽屋にいたGAKU-MCも笑顔でこう答えた。
「晴れましたね。最高です。明日、楽しみますよ」


楽屋を後にして、会場を視察。話では、台風での被害を少なくするために、すべて完成していたステージやフードエリアのテントなどを、一旦解体していたという。
遠くからライブステージを眺めると、ほぼその形を元に戻していたように見えた。しかしまだ完成には遠く、多くのスタッフが走り回っているのが見える。
そのままフードエリアへ移動。ずいぶん多くの雨が降ったのだろう。芝生はたくさんの水を含み、ひどく濡れ、フードエリアの剥き出しの土はもう水を吸いきれず、ぬかるみを作っているため、歩くのもままならない。
復旧は進んではいるが、夕方になってもまだ、フードエリアは解体されたままになっていた。トークショー「ap bank dialogue」が行われる大きなステージは骨組みだけが残され、出店が並ぶテントは畳まれたままだ。


何日もかけて設営したものを、たった一日で、限られたスタッフの数で完全に元に戻すことは大変な作業だ。開催が決定しても喜んでばかりもいられず、明日までにやるべきことが山積みとなっているということがリアルに伝わってくる。このまま徹夜での設営となることは目に見えていた。
こうして、すべてのスタッフが、一日だけのap bank fes’07のために必死に向かっていた。



台風の中、初めてのキャンプ

しかしeco-reso+(plus)と2日間のフェス中止の中、13日から始まっていた100人だけのap bank fesがある。キャンプ「eco-reso camp」に参加した人たちである。
「自然との共生」をテーマのひとつとしたap bank fesは、今年、初めての試みとして、つま恋内で500人限定のキャンプを行う予定となっていた。テントやシュラフを持参し、自然の中で生活することで、アウトドアが持つロマンや楽しさを味わってもらいたいという想いからだった。
キャンプサイトのチケットは発売と同時に即完売。とはいえ、おそらくキャンプ初体験の人も多いだろうということで、スタッフにはアウトドアのプロフェッショナルたちがつき、この3日間をいい思い出にしてもらおうと準備を重ねてきていた。
しかし、台風でとてもテントを張れる状態ではない。余儀なくキャンプの途中中止も発表されたが、中止の発表がなされる前につま恋に来ていた参加者が100名ほどいて、その参加者たちは、結局、つま恋の施設内にある体育館のような場所を避難所として、そこで過ごすことになったのだ。
初めてのキャンプが台風に見舞われ、ほとんど雨避けだけの屋根がついているような場所で、このままap bank fesも中止になるかもしれないという不安を抱えてのeco-reso camp。
「自然との共生がこれほどに過酷なものだとは思わなかったです。最初、中止と聞いたときは、絶望しましたよ」
と、参加者の一人は、正直な感想をそう述べた。
「だけど、本当に楽しかったんです。不安だったし、不便だったけど、誰一人文句言う人はいませんでした。あのスタッフの方々でなければ、きっと文句も出ていたと思うけれど、あの人たちのおかげで楽しく過ごすことができた。最後は一体感も生まれていて……。来年も絶対キャンプに参加するつもりだから、今度は本当にキャンプで楽しみたいです」

キャンプの責任担当者、滝沢守生氏はこう話す。
「本当のキャンプの楽しさを伝えられなかったことは残念です。だけど、やってよかったと思っています」
途中、避難していた体育館近くの山が土砂崩れを起こし、大きな木が倒れる事態が起きたり、吹き込む雨で床が浸水したりと、心配すべき出来事も多かったという。
しかしそんな中でも、竹細工を使ったワークショップを行ったり、みんなでオカリナを作ったり、地元のお年寄りに教えてもらいながらぼろ布で草履を作ったり、13日のeco-reso plusで上映予定だったアウトドアの映画「Banff Mountain Film Festival」を流したりと、やれることを実行した。


「その映画を観た後に、去年のap bank fesのDVDをみんなで観たりして、気持ちを盛り上げていましたね。それから、すごく感動的な瞬間もありましたよ。参加者の一人で、ギターを持って来ていた男の子がいたんです。彼は一人で参加していて、どちらかというと、おとなしいタイプの子だったんですが、いきなり、今からライブをやっていいかと訊くんです」
その彼は、Mr.Childrenの歌を次々と自分流に歌いはじめたのだという。決してギターがうまいわけでも、歌がうまいわけでもなかった。しかし、キャンプの参加者たちは、みんなで手を叩き、一緒になって歌い始めたのだという。最後の「to U」はみんなでの大合唱となり、その彼は胴上げをされ、その日のヒーローとなった。
スタッフの一人は笑って言う。
「もしap bank fesが3日とも中止になっていたら、僕らにとって、彼が今年のap bank fesのメインアクトでしたよ」
さらに滝沢氏は続ける。
「みんな本当にお行儀のいい人ばかりでした。誰も文句言わず、逆にスタッフの心配をして、僕らのためにすみません、とか言うんです。彼らのためにも、絶対に来年はリベンジします。本当のキャンプの楽しさを、彼らに知ってほしいと思うんです。今年のキャンプは、僕らにとってもとても勉強になりました。自然の中でキャンプをするということは、いろいろな判断が必要です。今回の課題を、来年、また活かせると思っています」


15日、キャンプ最後の夜には、小林とBank Bandのメンバーが体育館を訪れ、小田和正の「たしかなもの」を披露したという。小林の口から「明日はやります」と告げられると、参加者の中には、泣く人さえ現れたという。

文:川口美保

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