ap bank fes'07 ライブレポート|7月16日(月・祝)

7月16日(月・祝) ap bank fes'07最終日 <第一部>

予報では快晴のはずだった16日のつま恋だが、やはり今年は自然のハプニングと最後まで付き合えというメッセージだったのか、なんと雨までが落ちる朝となった。
しかし、その雨も無事におさまった10時、遂に「たった1日のap fes 07」が開場した。満を持した参加者が、最高の笑顔をもってつま恋に温度をもたらす。
若干、ぬかるんだフィールドがあるが、そこを避けて多くの人々がシートを敷きながら、ステージから発されるサウンドチェックの音を聴いている。特に四家卯大オーケストラの時は、フィールドはその弦楽器の真摯な音色に聴き惚れ、幻想的な雰囲気すら漂うのであった。
10時30分になると、バックエリアに多くのメンバーが集まってきた。当たり前だが、昨日一昨日と比べるまでもなく晴れやかな表情で「燃えている」感じががっつりと伝わってくる。亀田誠治が、「鳴らさなきゃいけないんですよ、音楽は! もう待ってましたよ。今回はリハもタイトだったし、でもとても上手く行ったもので、あとは鳴らすだけだったんですよ。遂に来ましたよ、その時が!」と伸びやかに話してくれた。他のメンバーも、総じてリラックスしながら前2日間とは違う表情を見せている。簡単な話だ、みんな「ミュージシャン」の顔になっているのだ。
そんな中、櫻井和寿はまずはサッカーボールでリフティングしながらウォーミングアップし、その後アコギを抱えながらバックエリアを徘徊し、楽屋入りするゲスト・アーティストの皆さんに挨拶をしている。小林武史とGAKU-MCは、フードエリアでトークショーを開催している。それぞれがメッセージを抱えながら、この日1日を始める最高の「挨拶」を交わしている。
あっという間に12時の開演時間が迫ってきた。ライヴ・フィールドにも参加者が続々と集結してきたが、ピンクとオレンジのオフィシャルTシャツを着ている人が多く、つま恋が程よい笑顔と共にカラフルに彩られている。バックエリアでもBank Bandのメンバーがステージ袖に集まった。過去2年間とは明らかに異質なフェスとなった今年だが、だからといって急に肩組んだり、檄を飛ばしたりするわけでもない。ただただ音を鳴らし、そしてそれを届けることのできる喜びを表すべく、彼らは「無邪気なミュージシャン」として、27000人の待つステージへ向かった。




Bank Band
一番初めにステージへ姿を現したのは、櫻井と小林のふたりだった。オープニングソングを奏でると共に主催者として参加者へ挨拶を行い、そしてホスト役としてBank Bandのメンバーを呼び込まんと現れたふたり。
櫻井が「今日は初日にして最後の日、付き合ってください。出逢いの1曲目を作ってきたんです。危うく発表の機会がないままになってしまうところでした(笑)。この曲は晴天ヴァージョンと雨ヴァージョンのふたつがあって、なんと!今日はどっちでもない(笑)。……でもみんなの表情が晴天だから、晴れのほうで行きます」と話してから、ゆったりと始めた「おろしたての1曲」、それがたった1日だけのap bank fes 07のオープニングソング“よくきたね”だった。
「今年もいっぱい遊ぼう 笑顔を作ろう」というセンテンスを胸いっぱいの気持ちで耳にする参加者。櫻井同様に開催できたことを喜び、そして安堵しているであろう小林の神聖なピアノ。最高の音色と空気が、最高のフェスの風を運んでくれた。

“よくきたね”




GAKU-MC
今年もap fesのムードメイカーはこの男、GAKU-MCである。雨の日の小学生の黄色い傘と長靴を彷彿とさせるような真っ黄色のズボンとスニーカーで現れたGAKU。ステージに現れるだけで、そこに花が咲く。
「まずは、(チケットを買っていたのに)ここに来れなかった人に、すいません。でもこのフェスを室内でやればよかったかと言ったら、そうじゃないんですよね。いろんなことがあって、だから音楽作って鳴らして、今日を迎えました。 昨晩11時に櫻井くんに呼び出され、ここまでマラソンしに来ました。夜中にずっとステージが作られて行って、その時、凄いもん見たんです。
続きはWEBで――」 とかましてから、歌い始まるGAKUくん、ちなみにWEB担当はその続きを今も教えてもらっていません。 曲の合間に櫻井から始まり小林で終わるメンバー紹介をしたり、参加者を一気に温めたり、本当にフェスの空気をいいほうへ導く大名人である。“挙手”では、緑色のリストバンドをした手を右に左に揺らしながら、みんなで空に手をかざそうと参加者に促し、うっとりするほど綺麗な景色を作って行く。
GAKU-MCのヒップホップは、「ヒップなポップ」である。彼の音楽はヒップホップのスタイルではなく、ロックンロール以来最大の、いや、それ以上の発明と言われているヒップホップの音楽性を追及している。よって驚きに満ちているし、ポップだし、音楽的な普遍性に根ざしたものになっている。だから彼は、KREVAを始めとした素晴らしきラッパー達からのリスペクトを得ているのだろうし、Bank Bandの演奏とも波長がピタッと合うのだと思う。
今年のBank Bandもいい。とてもいい。3年目という、自然なバンド感がさらに増し、もちろん歴戦の兵の武器も忘れず、そしてバンドとして音が合わさった時の透明度が、格段に上がっている感じが聴こえてくる。アンサンブルはコミュニケーションである。バンドは呼吸である。

“メルシーテレマカシーアリガトオブリガード”
“挙手”





HOME MADE 家族
フィールドが温まってきた中、櫻井の「初日のトップバッターだったはずの人たちが、偶然つま恋を散歩してたんですよ。だったら『やって来れよ!』って言って、来てもらいました(笑)」というMCに導かれ、14日出演予定だった2MC 1DJのHOME MADE家族が現れた。2MCはまるで落雷に遭ったまんま来てくれたかのように直線的に逆立ったKAMINARI BOYSヘアーで「たまたま通りかかってよかった! 奇跡を信じてよかった。音楽は素晴らしい」とMCしながら歌い始めた。メロウにスウィングするビートとメロディーが、メロウな天気と同調してこの日だけのハーモニーを描く。さすが東海は名古屋出身グループである。散歩ルート含めて、この辺りの事情にお詳しい――。
「来れなかった人の分まで楽しむ準備はできていますか? 僕らは祝したいんです、3年目のapがこうやって何とか開かれたことを。だから――」とMCしながらMICROが歌いだしたのは「ハッピバースデー・トゥー・ユー♪」。3歳の誕生日を迎えたフェスを祝う歌だった。その後、「実はうちのかーちゃんも今日が誕生日で」というオチまで付けながら、“サルビアのつぼみ”を。MICROの線の太い声と櫻井の繊細なコーラスが、絶妙の雰囲気を作っている。声と声が合わさるというのは、本当に一期一会なんだなとap fesでは毎年気付かされる。

“君がくれたもの”
“アイコトバ”
“サルビアのつぼみ”





AI
「小林さんが春の『AP BANG! 東京環境会議』で凄いのがいるぞ!って言ってて。実際に練習して見て、ほんっとに凄かった」という櫻井の賞賛、それに続く「本当にこういうオープンなシンガーがいるんだなぁって思った」という小林の賞賛に招かれて登場したのはAI。打ち上げでも櫻井が話してくれたが、何しろリハの歌い合わせの時のAIの集中力と自由さと、どの音やメロディーにも交わって行くテンションが凄かったらしく、あっという間に彼女のペースで曲が仕上がってしまい、Bank Band全員で感動したそうだ。 そんなAIは、この日のフィールドも一言でモノにした――
「間違いない! ハイ!!」というエールの送り合い。 これ一発でつま恋、完全着火である。
「いつも話すと長いから、落ち着いてやるよ、今日は」と言いながら、聴かせたくて話したくて交わりたくてしょうがないとばかりにジリジリしながら、そのエネルギーをバラードに込める彼女のソウル・ミュージックは、本当に素晴らしかった。AIの歌は、自由の歌だ。自由とは、強さと弱さを前面に押し出して、さらに自分のイメージで目の前の世界を何らかの形で打開しながら得て行くものだ。彼女の歌のすべてには、それが満ち満ちていた。
“Story”の「ひとりじゃないから わたしがきみを守るから」というリリック。MCも挟まずに小林のピアノから始まった名曲。AIのストーリーは、そのまま「リアル」だ。AIというリアルが、歌という名のメッセージを放つことがストーリーなのだ。

“Life”
“I’ll Remember You”
“Story”





KREVA
「最高! AIさ〜ん!! ねえ、凄かったじゃない?」というMCから間髪入れずに櫻井が次のグレイト・アーティストを紹介する。
「どの方も気持ちいいけど、次は最終日に特にふさわしい盛り上げ番長です。テンション高く、一緒に上がって行きたいと思っています。KREVA!!」
そのアナウンスに誘われて、猛ダッシュでKREVAがステージに入ってきた。去年に引き続きの出演である。そしてフィールドをゆっくり見回しながら、自分のペースでラップを始めて行く。
「去年は突然、ミスチルの曲を歌ったりしたんですけど、今年はやりません! やれー? うるざーい!!!  特別な用意はしてあるんだから!!!  僕がスピッツの草野マサムネさんとデュエットしている“くればいいのに”という曲がありまして――」
ここでもう、参加者はプレシャスなことが起こるのを確信し、拍手で歓迎しまくった。そう、スピッツのマサムネのパートを、「Mr.Childrenの桜井」が歌うのである。
KREVA、ほんとアンタは美味しいし、立派なエンターテイナーだよ。――誰もがそう思ったに違いない。
実際の桜井のコーラスは、彼のヴォーカル特有の切なさがメロディーと合わさって増幅し、マサムネのそれとはまた違った「もっと“くればいいのに”」になっていた。素晴らしいヴォーカリストは、その人の歌声や歌唱法は、時にメロディーをも超える力を放つ。そんな櫻井のヴォーカルを一番楽しんでいたのは、当のKREVA。本当に音楽が好きなんだな。音楽の中で何でもやっちゃおうとするんだな、ということが色濃く伝わってきた。
「もう帰っていいっすか? 最高っす、マジで」と自分で感動しながらも、やはりこの男、ただ喜ぶだけじゃ済まさない。
「環境のことを考える前に、自分の心のCO2を考えようぜ。だって自分の心をきれいにして自分のことを好きになれなかったら、人のことを好きになったり心配したりなんてできないよ」とスパっと言い切り、最後の曲へ向かって行った。メッセージとエンターテインは共存する。KREVAがそこにいる限り、とことん共存する。
KREVAインタヴュー
「今までで一番緊張しました。何でかなあ……前がAIちゃんで、『次、俺、ラップかよ』って思って(笑)。でも楽しかったです、昨日までのこともいろいろあるし、楽しみたかったし楽しませたかったです。桜井さん、やっぱ凄いです。マサムネさんのために作ったフレーズだし、マサムネさんにハマるもんだと思ってたけど、でも桜井さんが歌うと桜井さんのフレーズになるんですよね。なんか凄くよかったです。最近、ようやくプロ根性みたいなのが出てきて、音楽でいろいろやりたいって思っちゃうんですよね。そういうのも、このapに参加させてもらったりしていることが、きっと何か作用で働いていると思うんです。今年もありがとうございました」

“MY LIFE”
“くればいいのに”
“アグレッシ部”





絢香
次は春の東京環境会議でもKREVAと共に3日間出演した、apの新しいディーヴァである絢香。元気いっぱいのMC、そして孤独の告白のようなセンチメンタルなメロディーと、それを力強く歌う張りのある歌声。バックエリアで彼女の歌を聴いていたMr.ChildrenのJENが、「わっかいのに、パワーがあるなあ〜」としきりに感心していた。
彼女の歌と四家卯大オーケストラの音が混ざると、何だかそこが「日曜の教会」みたいになる。人々の祈りや願いがこの音と歌声に集結されているかのような、そういうホーリーな気持ちが凝縮されて行くような音空間ができ上がるのだ。
そしてお馴染みの“三日月”が始まった。 ここでは櫻井の熱唱が圧巻だった。彼の声域と合うのか、それとも単に大好きな曲なのか、それともBank Bandの官能的な表現力とこの曲の表情のハーモニーが絶妙の調和を映し出しているのか、細かくはわからないが絢香と櫻井のデュエットがオリジナルとはまったく異なる世界を作っていった。あれだけ儚い孤独の歌が、みんなの気持ちが集まっていることを祝福し合う歌のような、そんな温かくてたくさんの人の心がひとつになったかのようなアンセムとして響き渡っていた。

“Jewelry day”
“peace loving people”
“三日月”





GAKU-MC×絢香
「東京環境会議のためにオリジナルを作ろうと思って、そのためにGAKUくんと絢香に出会ってもらって作った曲があるんです。それを今日もやろうと思います」という小林のMCによってこの日のスペシャルメニュー(いや、言って見れば、すべてがスペシャルなのがap fesの魅力なのだが)が始まった。“あしあと”だ。
舞台袖から出てきたGAKU-MCは、先ほどのまっ黄色な衣装から真っ黒なそれに着替えている。赤の世界で彩られた絢香をたてる、という彼女への気遣いがそこに感じられる。これもひとつの心のレゾナンスである。
この曲はap bankがなかったら存在しなかった曲である。そんなこと言い出したら、絢香が生まれていなかったらとか、櫻井が音楽選ばずに銀行員目指していたらとか、言い出したらキリがない話になって行くのだが、そういうひとつひとつの必然が1曲1曲を作って行くんだなぁということに気付かされる歌。まさに生命の「あしあと」を感じる曲であった。
この曲が終わった瞬間にピアノから立ち上がって拍手をしている時の小林の表情が印象的だった。大きな安堵の表情だったのだ。それはようやくBank Bandの第一部が終わろうとしているからなのか、それともこの曲が「鬼門」だったからなのか、何だったのだろうか?――しかし、小林の安堵が非常に正しいものだったことが、バックエリアでまさに証明されていた。「あの男」、この日のシークレットゲストが、まさにその時、つま恋のバックエリアに姿を現したのである…………。

“あしあと”




Bank Band
「あっという間に前半戦が終わろうとしていますが……もう、(自分でまるまる1曲)歌いたくて歌いたくてしょうがなかった(笑).歌わせてもらいます」と櫻井が話す。遂にここまで来た、Bank Band第一部、最後の曲。それは矢野顕子さんの名曲だった。
久しぶりにギターを降ろしてスタンドマイクを握りながら、櫻井が歌っている。本当に幸せそうな表情で歌っている。たぶん、矢野顕子の曲でステージ右袖から左袖まで一気に突っ走るヴォーカリストは、櫻井和寿ただひとりだけであろう。
とてもグルーヴィーで快適な演奏が鳴っている。個人的な印象だが、今年のBank Bandはグルーヴが「黒い」。3年目としてのバンドの調和が吸い付くような粘りを見せているのか、それとも今年の選曲がバラッドからミドルまでのかなりゆったりとしたものが多かったからなのか――どちらにしろ、去年までより落ち着いているにもかかわらず内面的なエモーショナルが増幅しているようなサウンド&リズムがつま恋に木霊していた。そして全員が穏やかな表情を浮かべながら、第一部は終わった。ここまでで既に5組のアーティストが登場した。まだまだ時間は14時ちょい過ぎ、序の口であった――。

“ひとつだけ”




東田トモヒロ
休憩時間と題されたこの時間のメインステージも音楽は鳴り止まない。二組のアクトが出てきて、リラックス・タイムを音楽で彩ることとなった。
一組目は東田トモヒロ。熊本をホームにして活動する、サーフロックのシンボルのひとりである。
音楽はアートであって、アートは人の心によくも悪くもショックを起こすものである。 だが。音楽は何もショックを起こさずにも人に何かいいことを芽生えさせるのではないか?と。生活の歌を生活するように歌って、そこで何かが芽生えるんじゃないか?と。 東田の歌は、そういうリラックス極めた空気を流した。
僕の後ろでは「あ、この曲、ボブ・マーリーの曲だよね? ここでこの歌を聴くと優しい感じだねぇ」と恋人達が語り合っていた。そんな素敵な会話を起こさせる歌を、東田トモヒロが歌っていた。

“NO WOMAN NO CRY”
“WAR IS NOT THE ANSWER”
“流れ歌”





DEPAPEPE
続いて登場したのが、アコギふたり組のインスト・ユニット、DEPAPEPEである。DEPAPEPEのふたりもステージ上で座り込み、フィールドのみんなもご飯を食べたり水分補給しながら座り込み。それでもステージもフィールドも、もっともっと音楽を欲している。そんな空気の中、DEPAPEPEの爽やかでセンチメンタルで生々しいアコギ2本のデュエットは、心地よい風と共鳴しながらずっとずっと鳴っていた。
メランコリックな、絹のような音色のギターから発されるもの、それは「安息」である。音楽が生き物なら、音楽自体が安息を求める時もあると思うのだが、そんな時に求められるのはきっとこんな音色だ――というのがDEPAPEPEのアコギポップである。ギターが汗を拭き、風を吹かす、自然と僕らの呼吸と波長を合わす最高のシンフォニーが鳴っていた。

“Sky! Sky!Sky!”
“ありがとう”
“START”





15時が近付くにつれて、バックエリアでは再びBank Bandが集まり、ステージへ向かっていった。既に17曲を鳴らしたBank Bandだったが、まだまだ実は「19曲もの新しいアレンジの音楽」が控えているのだった――。 

(つづく)
鹿野 淳(fact-mag.com

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