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VOL.15

2018.08.03

ap bank fes ‘18ライブレポート
~7月16日 (月)~
Text :鹿野 淳(MUSICA)
Photo:橋本塁(SOUND SHOOTER)/高田梓(SOUND SHOOTER)/中野幸英
ap bank fes ‘18ライブレポート ~7月16日 (月)~
2日目にしてap bank fes ‘18の最終日にあたる7月16日。この日も全国的な酷暑の中で開催されたが、前日以上に早い時間からほとんどの参加者がつま恋に集まり、容赦なく燦々と輝く太陽と上手く付き合いながら、この上ない1日を芝生の上で楽しんでいた。今年のap bank fesは小さなお子さんを連れた家族が今まで以上に多く訪れたことも特筆に値すると思う。
楽屋エリアではこの日もBank Bandの「朝練」が丁寧に行われていた。実はバンドメンバーは開催の何日も前からつま恋に集まり、言うなれば「合宿」状態でリハーサルに励んでいたという。本当にミュージシャンシップ溢れる人たちによる音楽に優しいバンドなんです。

Bank Band

11時30分。今日もつま恋に響く透明な音霊を響かせる小林のピアノを目を瞑ったまま聞き入っていた櫻井が発した第一声は、言葉でも挨拶でもなく「よく来たね、大変だったんじゃない? つま恋まで。今年もいっぱい遊ぼう、笑顔をいっぱい作ろう」という歌唱であった。今日もその歌を支え、引き立て、鼓舞する力強いBank Bandの強者どもたちが穏やかに孤高のアンサンブルを鳴らしている。最終日もこの時点で色々な思いや人生を抱えて来たオーディエンスがガチッと一つになった。本日も3万人以上の人たちとの音楽デートが始まった。
2曲目、Bank Bandのテーマソングである“奏逢”では、昨晩、今日のライヴのために気力と体力を養うべく睡眠を優先し、敢えてW杯の決勝戦を見なかったベースの亀田などが先頭に立ってオーディエンスの笑顔を煽り最高にフィジカルなコミュニケーションが生まれた。ギターの小倉に至っては、この酷暑の中でギターをキメながらの大ジャンプからの大ジャンプ!からの櫻井とのハイタッチ!!今日もつま恋は音楽の生きる天国になった。

ap bank fes ‘18ライブレポート ~7月16日(月)~
Bank Band
M1. よく来たね
M2. 奏逢~Bank Bandのテーマ~

チャラン・ポ・ランタン with Bank Band

「本日最初のアーティストをお招きします。僕にとって、可愛い言い方をすれば妹のような、そうでない言い方をすると、親戚のおばちゃんのような(笑)人たちを紹介します。チャラン・ポ・ランタン!!」という櫻井のとびきり人懐っこい招きに呼ばれ、リズミカルな行進曲風のアコーディオンを小春が弾きながら、全身笑顔の2人が入場した。そしてMr.Childrenおよび彼らのツアーメンバーと共にレコーディングをした“かなしみ”を最初に披露した。
すでにたくさんのキャリアを誇る2人には失礼な言い方かもしれないが、とにかく可愛い。まるで可憐なる音楽の妖精のような2人がチャラン・ポ・ランタンである。この2人がつま恋にいるだけで、まるで僕らと音楽の仲人を務めてもらっているような気になるピースフルな演奏、そして歌。
「櫻井さん、夏が好きですもんね、私も夏が好きなんですよ、4番目に」というナイスなMCを挟みながら、一瞬でこの巨大な空間を自分らのペースに持ってくしなやかな力技。ヴォーカルのももは10年以上前からずっと持っているお守りのような「豚さん」のぬいぐるみを今日も抱えてリズムに合わせピョンピョン跳ねながら歌っている。その微笑ましさを、まるで親戚一同のような佇まいでサポートするBank Bandと相まって、素晴らしくハイブリッドなセッションをしているにもかかわらず、まるで自分の家に出張演奏に来てくれたような「あり得ないほど近い」ライヴが繰り広げられた。

ap bank fes ‘18ライブレポート ~7月16日(月)~
チャラン・ポ・ランタン
M1. かなしみ
M2. ほしいもの

高橋優 with Bank Band

「昨日から来て、ずっとライヴも観て、今日も朝早くから気合いをバッチリ入れてくれてます。このフェスが本当に好きだと言ってくれてます。紹介します、高橋優!!」という櫻井のアナウンスに呼ばれ、「ずっと出たかったです!」と叫びながら、初めて高橋優がap bank fesに現われた。
いきなり「世界の共通言語は英語じゃなく笑顔だと思う」という名フレーズを歌い、会場の雰囲気をチャラン・ポ・ランタンからの流れ含めてさらに「丸く」していった。オーディエンスも切なくもあたたかなメロディの上で笑顔の真価を唱えるその言葉に安堵を覚えたのだろうかーー全身で喜びを表し、両手を掲げながら大きなリズムの上でずっと拍手をしている。いいメロディ、いい言葉、そしていい音楽家たちといい笑顔。音楽の幸福な心臓がドクドクしていた。
「初めましての方がほとんどだと思います。実はこのフェス、2009年に出させてもらったことがあるんですよ。koti market liveって、フードマーケットのなかにある特設ステージで歌わせてもらって。ナオト・インティライミもその時そこで歌ってたんですよ。だからどうしたってことじゃないんですけど(笑)。今でもすごく仲良くさせてもらってます。そこで歌わせてもらって、でもやっぱりBank Bandがどうしても見たくて、一番後ろのあたりでみてたんですよね。(手を挙げている後ろの方をさしながら)そう、その辺!ありがとう、手を挙げてるの見えてます。見えてるんだね。あの当時ね、そっちからみるBank Bandの皆さんは、2mmくらいだった(笑)。それから9年経って、ちょっとずつ自分の音楽をやらせてもらって、今ここに立たせてもらって本当に光栄だと思ってるんですけど、人って欲望が出てきてしまうもので、ここに立たせてもらったら、今度は集まってくれた皆さんとすげぇ楽しい時間過ごしたいなって思っちゃう訳なんです。ただここに立ったからゴールな訳じゃねぇなって思っちゃうんですよ。声出せますかつま恋!」と叫び煽り、そして「明日はきっといい日になる」と歌い始めたーー。高橋優の歌詞、メッセージは、そのすべてを日めくりカレンダーに書き残したくなるようなものばかりである。

彼が生み出す音楽は、基本裸ん坊の赤ちゃんがオギャーオギャーと泣いているような剥き身の音楽だ。その剥き身さを音楽的に解釈しながら、バンドならではの剥き身のアンサンブルとアレンジを施したBank Bandとの愛称は抜群だった。高橋優という名のフォークを、Bank Bandは日本のブルースにそっと熱くアレンジして独自のポップを鳴らしていた。ステージもオーディエンスもとにかく楽しそうだったが、誰よりもきっと「曲」自体が一番愛らしく笑って喜んでいるような3曲のアクトだった。
「一番後ろで見ていた僕に映った姿が2ミリメートルだったBank Bandと一緒にやれて、2ミリぐらいにしか見えないみんなと今日は一緒に声合わせられて、奇跡のような時間でした。あの頃からどこかでこの瞬間を想像してました(笑)。だって想像しなきゃ実現しないでしょ」と、すっかり名MCアーティストになった高橋が最後に選んだ歌は“虹”。櫻井と一緒に歌ったこの歌は、七色以上の色とりどりのつま恋のフィールドで輝いた。巨大なLEDビジョンには、常時七色の汗を書き続け笑顔で歌い続ける高橋の姿があった。

ap bank fes ‘18ライブレポート ~7月16日(月)~
高橋優
M1. 福笑い
M2. 明日はきっといい日になる
M3. 虹

indigo la End

すでに30度を超える酷暑の中、ほぼ全身黒づくめで登場した初出演のindigo la End。
失恋の歌がほとんどの、どっぷりセンチメンタルなバンドだが、初のつま恋で最初に響かせたのは、彼らの中では最高にアッパーな“瞳に映らない”。ベースの後鳥が手拍子を煽るような、これまた意外なパフォーマンスに合わせ、幾何学模様の複雑なアンサンブルを、雲に包まれて真っ白な色を浮かべるこの日の空に放り投げていた。
リーダーである川谷絵音のもう一つのバンド「ゲスの極み乙女。」は去年初めてap bank fesに出演したが、その陽性の強いゲスとは真逆の「陰」を響かせるような卓越したテクニックの演奏、そしてメロディーは、むしろap bank fesの音楽ファンのど真ん中に響いているようで、多くのオーディエンスが頷きながら聞き入っているのが印象的だった。

彼らのライヴは楽曲のほとんどが失恋という、言うなれば後ろ向きなものだが、演奏、音、プレイは強力なほどまでの突進性を持ったアグレッシヴなものなので、続けていくうちにどんどんエモーショナルになってゆく。メンバー同士もクールなフリをしながら目と目を常に合わせて間を計り、グルーヴを確信犯的に高めてゆく。そのライヴを進めながら心模様が性急になってゆく流れをオーディエンスも上手くキャッチし、初体験の方も多いであろうインディゴカラーのライヴを自分のものにしていた。
「ミスチルが小さな頃からずっと好きで、だからとても嬉しいですし、indigo la Endはスピッツとミスチルの影響をみんな受けているので、そのindigoで出れたのが、特に嬉しいです」というMCを川谷がした後で演奏したのが、曲中に「スピッツスピッツ(バンドのことではなく犬のことですが)」というコーラスが入る“冬夜のマジック”というのも、川谷らしい捻れたジョークで楽しかった。
“冬夜のマジック”から一曲挟み、季節合わせの洒落なのか、“夏夜のマジック”を涼しげに歌い鳴らしながらインディゴタイムが終わった。

ap bank fes ‘18ライブレポート ~7月16日(月)~
indigo la End
M1. 瞳に映らない
M2. 雫に恋して
M3. 夜汽車は走る
M4. 冬夜のマジック
M5. ハルの言う通り
M6. 夏夜のマジック

ハナレグミ

13時45分、ゲストアクト2組目は一昨年の石巻での開催以来となるハナレグミ。その時はBank Bandのゲストシンガーとしての出演だったが、今回は自分のバンドと共に参上した。

まるで気兼ねのないキャラバンに何万人一同を乗せるような優しくも力持ちなグルーヴと歌で手を差し伸べるようにライヴを進めてゆく姿は、まるで音楽のお兄さんのようで、そんな雰囲気がなんともap bank fesと最高のハーモニーを描いていた。
「座って聴いててもいいからね、ゆっくり聴いてください」というMCをする人はフェスでも多いが、ハナレグミほどその言葉が自然とフィットするアーティストもいないのではないだろうか? 心の耳を立てて心の声を聞いてと歌う数々の名曲は、オーディエンスに対して自分の心の耳で音楽の心の声をキャッチする余裕と豊かさをきちんと優しく伝えていた。
黒人音楽、ブルース、フォーク、AOR、日本のポップ、それらの「阿吽」をしっかり握り締めて演奏する4人は素晴らしいミュージシャンシップに溢れ、ライヴ自体がまるで音楽の公園のような雰囲気と錯覚を覚えさせた。

「すげぇ気持ちいいね。みなさん体調大丈夫ですか? 多分、今日きている方で、四国とか九州とか、大変な中から駆けつけてくれている方もいると思います。自分だけこういう楽しい場所来ちゃっていいのかななんて思っている方も多いとも思うんですよね。でも、思い切り楽しんでいいと思いますよ。音楽は、深呼吸するためにあると思いますから。ゆっくりハッピーなものを吸って、またみんなの時間にかえっていけたらいいと思ってます」と、この上なく切なくもあたたかな言葉からの“深呼吸”。堪らないなあ、本当に堪らない。
「あと一歩だけまえに」 -LEDビジョンに映されるハナレグミこと永積の目が、空を見る時もオーディエンスを見る時も隣のギタリストを見る時も一緒の眼差しで、本当に大切なことを見ようとしているような堪らない視線だった。その視線から生まれる歌と音は、「まず僕がステージの上で音楽で遊ぶから、よければご一緒に」という手招きをap bank fesのすべての生きとしいけるものたちに差し伸べていたように聴こえた。

最後は“明日天気になれ”。そう、単なる今日だけじゃない、ずっと続く日常へ向けた今日が大事なのだ。だから最高の今日を過ごし、そしてまずは明日- 。明日への大切な宝物を置いてハナレグミがステージから飄々と降りて行った。

ap bank fes ‘18ライブレポート ~7月16日(月)~
ハナレグミ
M1. My California
M2. 大安
M3. 深呼吸
M4. オアシス
M5. 明日天気になれ

MAN WITH A MISSION

毎年様々なゲストバンドが登場するap bank fesだが、この日この時間帯からは日本の音楽フェスでもヘッドライナー級に大人気のバンドが2つ登場する時間となった。まずは、頭はオオカミ、身体は人間という、奇想天外な「究極の生命体」が登場した。そう、MAN WITH A MISSIONである。

今年から小学生以下の子供が無料になったフェスに、子供にも大人気なマンウィズ、肩車をしたお父さんと子供の姿も多く見かけられた。イントロが鳴った瞬間からみんな両手を振り上げて熱く大歓迎をしている。その「誰も一人ぼっちにさせない」ライヴは、今年のap bank fesの中でも格好のロックタイムとなった。
「楽しんでるか、人間の野郎ども! 最後までその調子で頼むぜ!」とサウンドだけでなく煽りに煽り、「感慨深いですね、初めて出させてもらいますが、ご覧の通り、夏フェスには相当向いてないバンドです」と笑いを取り(なんせ艶やかな毛並みに覆われているのだから)、しかも「熱中症に気をつけてーーどの口が言ってるのかって話ですけど」とさらなる笑いを取りつつ、しっかりと空間を心地よくガイドして行っている。演奏、空間プロデュース、エンターテインメント、そのすべてがとにかく「上手い」。
だからなのか、きっとすべての曲を知っている人が多いわけではないかと思うが、とにかくみんながみんな、すべての曲に楽しげに対応してコール&レスポンスが成されていた。とにかくどんな曲でも大きく強い手拍子が湧く、そして人間対究極の生命体による、人間対人間以上の一体感が生まれたのだったーー。

最後の最後には日本のフェスの最大級のアンセム“FLY AGAIN”。メンバー全員ここぞとばかりに右に左に走り回りラストスパート。3万人もここぞとばかりに地面が揺れるほどのジャンプとハンズアップで大応戦。
炎上という言葉は今の世の中ではネガティヴな意味しか持たないが、このバンドのライヴにおける音楽の炎上は、最強の「ロックの証」だった。

ap bank fes ‘18ライブレポート ~7月16日(月)~
MAN WITH A MISSION
M1. Emotions
M2. Get Off of My Way
M3. Take Me Under
M4. Raise your flag
M5. Winding Road
M6. FLY AGAIN

[ALEXANDROS]

続いてもうひとつ、現在の日本のフェスシーンを牽引するバンド、[ALEXANDROS]。彼らもap bank fes初登場である。サウンドチェックの時点から痛快に歪んだギターサウンドが豪快に大気を揺らしている。
タイトかつ重心の深いリズムに小気味いいギターのカッティングで幕を開け、ロマンティックなアルペジオが美しい彩りを添える“Adventure”から、ライヴはスタートした。つま恋のフィールドと呼吸をシンクロさせるように、自由に軽やかに舞い踊りながら、実に気持ちよさそうに歌う川上洋平。涼やかな風が吹き抜けるフィールドをその歌が、音が、雄大に飛んでいき、観客も自由にゆったりと手を上げ声を上げ呼応していく。そしてそのまま“ワタリドリ”へ。パーカッシヴでダンサブルなリズムの上で雄大に羽ばたく、ドラマティックさと胸のすくような爽快感を併せ持つメロディを存分に響かせ、確かなる熱狂と一体感を獲得し、まず最初のハイライトをここで刻んだ。

近年の[ALEXANDROS]は多彩な音楽観を表すようになっているが、彼らの特徴のひとつとして、ロックが世界中の若者にとってアンセムとなった90年代の海外のスタジアム・ロックのメロディ感と、J-POPが培ってきたこの国の大衆的なメロディ感が絶妙にハイブリッドされた、アンセム性の高い楽曲を持っていることが挙げられる。頭2曲とそこに続いた“明日、また”はまさにそんな彼らの魅力が全面に現われた楽曲で、それはこのフェスのオーディエンスの心をきっちりと掴んでいた。

しかし、もちろん彼らはそれだけでは終わらない。「(ap bank fesに)いつ呼ばれるかないつ呼ばれるかなと思って。ウチらと同世代のバンドがどんどん呼ばれていくのを見ながら、嫌われてるのかなと思ってたんだけど(笑)……俺はこの主催者達が大好きなんです。あの人達のおかげでロックバンドを目指すことになっちゃったんで」という川上のMCを挟んで投下されたのは、最新シングルである“Mosquito Bite”。ロックバンドとしての獰猛な本能を遠慮なく炸裂させるような、ヘヴィでエッジーなバキバキのバンドサウンドをガッツリ轟かせ、一瞬のうちにフィールドの色を鮮やかに塗り替えた。ただ共にピースフルに楽しむだけじゃない、どんな場であろうと自らの爪痕を深く鋭くオーディエンスの心に刻み込む。そんな彼らのロックバンドとしての矜持が表れた瞬間だった。
ラストは“Starrrrrrr”で思い切り観客を弾ませ、大団円。今の彼らが抱いている自信が伝わってくるような、貫禄溢れるアクトだった。

ap bank fes ‘18ライブレポート ~7月16日(月)~
[ALEXANDROS]
M1. Adventure
M2. ワタリドリ
M3. 明日、また
M4. Mosquito Bite ~ハナウタ
M5. Starrrrrrr

Mr.Children

昨日は“HERO”からライブをキックオフさせたMr.Childrenだったが、この日は“足音~Be Strong”からスタート。長きにわたってこの国のトップ・バンドとして走り続けてきた彼らが、今から約3年半前、もう一度自分達の足場を確認し、バンドとして意識的な再出発を迎えていったタイミングで生み落とされた楽曲だ。どっしりと力強いビートと共に、今という時代は言うほど悪くはない、夢見ていた未来へ向かって一歩一歩、大切なあなたと、そしてこの世界のどこかで同じように歩き続けるあなたと、どんな時も怖がることなく進んでいこうと歌うこの曲は、時代も世代も選ばない普遍的なメッセージソングであるのはもちろんだが、次々と大きな災害が降りかかる今この国に生きる人々に確かな力を与えることもまた間違いない。

今日が昨日に比べて涼しいことを引き合いに出し、だからこそ「暴れてもらうよ!」と嬉しそうに言い放った櫻井の言葉から始まった“fanfare”では、骨太なサウンドをガツンと轟かせながら、櫻井も田原も中川もステージサイドへと飛び出し、観客を煽っていく。バンドならではのダイナミックな躍動感がとても色濃く現われたサウンドも、飛び跳ねながら力強い歌を放っていく櫻井の歌唱も、そこで歌われる<さぁ 旅立ちのときは今>という言葉も、そして両手を挙げてそれを受け止め、共鳴し、力いっぱいステージへと返していくオーディエンスも、すべてが一体となって圧倒的にポジティヴでどデカい高揚を描き出していった。

「Mr.Childrenというバンドも、このap bank fesに育てられたバンドだと思ってます」-そんな言葉も櫻井の口から語られたが、前述した再出発のタイミング以降、Mr.Childrenはもう一度バンドとしての自分達を見直し、新たな試みを含む意欲的な活動を展開してきた。その中でおそらく彼らにとってとても大きかったのは、2016-2017年にかけて全国を回ったホールツアーだろう。アリーナやスタジアムとは違う、メンバー同士の距離も観客との距離も近い会場で、お互いの呼吸をダイレクトに感じながら、同期を使うことなく深く丁寧に音で会話し合い、音楽を奏でていくこと。あの経験と、その上でスタジアムを回った昨年のデビュー25周年ツアーを経て、ライヴバンドとしてまたひとつ明確に深みと強靭さを増して、彼らは今年つま恋に帰ってきたのだ。

そんな、今のMr.Childrenの肉体性とバンドとしての動物的な本能が研ぎ澄まされたライヴを、この日の彼らは繰り広げていた。櫻井の歌はもちろん、そのあらゆる音とビートのひとつひとつから、彼らが音楽に託した衝動も願いも、喜びも祈りも、すべてがダイレクトに伝わってきた。特に“himawari”でのそれぞれのパッションが迸り、問答無用に胸を掻き毟られるような強いエモーションが溢れ出した名演は、その真骨頂だった。
最後は再び笑顔で、この場に集った全ての人と分かち合った今を讃え合い、感謝し合い、そしてそれを抱きしめたまま、また互いに次なる未来へ向かうべく放たれた“GIFT”が、その大合唱が、色とりどりのあたたかな光と共にフィールドを満たしていった。

ap bank fes ‘18ライブレポート ~7月16日(月)~
Mr.Children
M1. 足音 ~Be Strong
M2. HANABI
M3. fanfare
M4. 彩り
M5. here comes my love
M6. 忘れ得ぬ人
M7. himawari
M8. GIFT

絢香 with Bank Band

17時55分、遂に今年のap bank fesの終幕の時間が近づき、名実ともに大団円の時を迎えた。そう、このフェスのホストバンド、 Bank Bandのラストタイムにしてこのフェスのフィナーレの時間である。
最後まで全員で笑顔を振りまきステージに入場した、まさにバンドマンの中のバンドマンたちは、これまたいつものように真摯に楽器を取り、そして最後の時を噛みしめるように静かに準備をした。

そんな中、「凄い歌、聴けるからね、楽しみにしてよ! 絢香さん!!」という櫻井からの紹介を受けて登場した絢香。喋るように歌い、救うように歌い、遊ぶように歌い、そして大切な何かのために歌うような彼女の歌は、それが「ラーラーラー」であっても、「そう、大丈夫」というメッセージのように聴こえた。そもそも女性ヴォーカルに対して最高のサポートを誇る小林のピアノが、今年のapの終わりも合間って切なくも抱きしめたくなるような音を鳴らしている。
そもそもはハスキーな声を持つ妖艶なヴォーカリスト絢香は、なんと今回10年ぶりの出演。その10年がなんであったかを冷静かつ真摯に届ける数々の歌、歌、歌。祈りにも通じる、静かに荒ぶる感覚が彼女の歌の持ち味だが、そのことを肌で感じて知っているBank Bandの面々は、彼女の美しさのみならず残酷なまでの歌の怖さのような本能をも引き出す演奏を、太い音の曲線を持って表現した。

最後に三浦大知とのコラボレートソングにして小林武史プロデュースの名曲“ハートアップ”を、櫻井と共演。静かに始まりながら、やがて4つ打ちが大胆に導入される伸びやかなナンバー。大人のダンスポップとも言える曲を、絢香と櫻井がまるで兄と妹のように本音で歌い合うのが素敵なナイスセッションだった。

ap bank fes ‘18ライブレポート ~7月16日(月)~
絢香
M1. にじいろ
M2. ツヨク想う
M3. ハートアップ

岡村靖幸 with Bank Band

「僕のソングライターとしてのヒーローを紹介したいと思います。岡村靖幸さん!!」という櫻井の叫びに呼ばれて登場した岡村は、彼の1番の武器であるオベーションの生ギターを抱え、ダンスビートに合わせて獰猛に掻きむしった。いきなり代表曲の“あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう”が始まった。歌だけでなく掻き毟るギターからも岡村ちゃんイズムが強く太く濃く、そして鮮やかにつま恋の大地に響き渡る。そしてその名曲からのノンストップで負けず劣らずの名曲“だいすき”へ。もうこれはポップミュージックの一大マジックだ!
80年代後半から90年代突入の頃のバブル期、そしてそれが弾け飛ぶ崩壊カオスの両方の時代観が爆発したかのような名アンセム2連発で圧倒した岡村は、一瞬の間を置いて再びBank Bandの人力ディスコビートを駆使しながら今度は復活後のヒット曲を、自ら踊る見事なブレイクダンスと共に歌い続けた。

亀田のトグロを巻いた蛇のようなチョッパーベースに乗せて野外ディスコがさらに暴発してゆくと、そこからは2人のダンサーが岡村に絡み、まるでミュージカルのような様相を呈して来た。人によっては敏腕証券マンのようにも映るスーツを纏った岡村に、その出来の悪い部下のようなダンサーがユーモア溢れるステップで絡み、もう頭の中が一気にみんな空っぽになり、あとはひたすらビートとメロディーの虜になって行くのであった。初めて見るオーディエンスも、目の前で起こっている音とビートとダンスにただただ圧倒されながら、言葉にならない嬌声をあげ続けた。

大人の音楽ディズニーランドのようなスペクタクルなダンスショーが終わり、最後はしっとりとしたリズムバラード“カルアミルク”。櫻井もだいすきな名曲を2人でデュエットする、まさに「公開音楽デート」が繰り広げられた。
ポップとなんなのか? それは答えは見つからないほどたくさんあって、だからこそポップなのだろうが、その答えが何かすらも忘れさせるめくるめく音楽の力を岡村がファンタスティックに届ける、ap bank fes最終日の夜の始まりだった。
ストリングス、ブラス、コーラス、そしてバンド編成という、全てを備えたBank Bandを、ある意味一番活用した、そしてバンドに一番活躍させたアクトが、岡村靖幸その人だったかもしれない。

ap bank fes ‘18ライブレポート ~7月16日(月)~
岡村靖幸
M1. あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう ~ だいすき
M2. 愛はおしゃれじゃない ~ ビバナミダ
M3. カルアミルク

Bank Band

18時45分、すべてのゲストバンド、ゲストアクトが終わり、ステージには純粋なるBank Bandのメンバーのみが残る本年度のラストパートとなった。

静かにマイクの前に立った櫻井は、彼が愛してやまない中島みゆきの“糸”をドラマティックなアレンジで歌を支えるBank Bandのアレンジの上で、女性ヴォーカルとは違う「僕らは脆いし弱いけど、だからこそ生きる何かを支えたいと願う」男性ヴォーカルの力をいかんなく発揮する歌を響かせた。
「よく人生を旅に例えることがありますけど、みんなのこれからの人生がすべからくハッピーであることを願って、この旅の歌を」と言いながら昨日に引き続き小沢健二の“ぼくらが旅に出る理由”を。これまで2日間、いろいろな曲とシチュエーションで合計6万人以上のオーディエンスが両手を右に左に振り続けたが、この歌の両手は「バイバイ」。笑顔と両手でお別れを惜しみながらも再会を願うような、まさに旅で出会った大切な仲間との時間を惜しむようなコール&レスポンスだった。

Bank Bandの素晴らしいところは、このグランドフィナーレの時間に、今までで一番リラックスしたライヴを届けていること。久しぶりのつま恋、オーディエンスもさることながら、このフェスのために生まれ、ここまでお互いに時間と身を削って進んできたバンドの2018年ラストライヴに感情を揺さぶり揺さぶられながら、最高にリラックスしたグルーヴとアンサンブルを出し合い、LED画面に映るメンバーの表情は今日一番の笑顔の集大成だった。
昨日よりも雲が多かった分、夜の帳が下りるのが早い中、Bank Bandのメンバーと言っても差し支えないであろう、このバンドの妹にしてディーヴァのSalyuを招き入れ、ap bank fesの誓いと祈りの歌、“to U”が始まった。ここで歌われていること、鳴っている音、その1つでも聴き逃すまい、心から零さないように、瞬きすらしないようにステージの音を凝視続けるオーディエンスが、さらにこの曲の魔力を引き立てる。

ap bank fes ‘18ライブレポート ~7月16日(月)~

「“to U”ができて13年、久しぶりにつま恋に戻ってこられて、この2018年のap bank fesに来ているみなさんに聴いてもらいたい、ただそれだけで、曲を作りました。本当にただそれだけで作った曲です。気がつけばとんでもない大雨による災害があって、きっと”to U”もそうだけど、いつの間にか災害が起こった時に沁みる歌みたいになってるけど、最初は全然そんなこと考えてなくて。だけどそんなap bankの新しい歌といろんな世の中のハプニングが重なって、とっても複雑な気持ちですけど、この曲がだれかの背中を押したり、配信でだれかが買ってくれてそのお金が何かの支援になるんだったら、本当にこの曲を作ってよかったなって思います。たぶんきっとこの先も、日本中の至るところで、防ぎようのない災害は起こります。みんなの街かもしれないし、僕らの街かもしれない。みんなの街だったら僕らは心配で何かできないかって思って活動するかもしれないし、僕らの街でそんなことが起こったら、みんなも心配してください。そんな風に助け合って、心配し合って、思い合って、過ごしていけたらいいなと思います」

最後の櫻井のMCの後、今年のap bank fesの最終歌はBank Band with Salyuによる“MESSAGE -メッセージ-”。「だけどもう一度 だからこそもう一度」という歌詞が胸を締め付ける、弱みを曝け出すことの惨めさ以上に自分を認めてあげられる力が湧いてくる、とてもリアルな生きることへの讃歌だ。
櫻井もSalyuも、男性でも女性でも人間でもない、まるで怒りや嘆きのように轟音をあげて崩れる氷山や激しく落ちる滝の水のような、言葉を飲み込むような何か大きな力そのものの歌を歌っていた。そうだ、2人の歌だけじゃない、Bank Bandのすべての音がまさにそうだった。

ap bank fes ‘18ライブレポート ~7月16日(月)~

「ほんと幸せ! バイバイ!!」という、初日の声と比べるとハスキーになった -それはそうだろう、毎年、どれだけ歌ってくれるのだろう、このアーティストは- 櫻井の声で今年のap bank fesは終わった。
ステージから最後に降りる小林は何度も「万歳!」をみんなに笑顔で繰り返した。その万歳の意味はきっと、「ありがとう、おやすみ、またね」であったことと思う。

ap bank fes ‘18ライブレポート ~7月16日(月)~
Bank Band
M1. 糸
M2. ぼくらが旅に出る理由
M3. こだま、ことだま。
M4. to U
M5. MESSAGE -メッセージ-

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