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VOL.9

2018.06.21

変わりゆくエコロジー最前線江守正多 × 小林武史 対談<前編>
変わりゆくエコロジー最前線 江守正多 × 小林武史 対談<前編>
ここ数年で”エコロジー”に大きな変化が起きていることを知っていますか? ap bankが設立時から課題としてきた温暖化対策には、当時では想像もつかなかったようなシフトチェンジの波が押し寄せています。あらためて学ぶ、2018年現在の最新エコロジー状況。気象学者で国立環境研究所・地球環境研究センター副センター長の江守正多さんにお話をうかがいます。

いまや環境への配慮は忍耐とイコールではない(江守)

小林

ap bank fesが6年ぶりの『つま恋』開催ということで、僕らとしてもいま”原点回帰”というかんじがあるんです。そこでまず思うのはやはり「僕らはなぜap bankを作ったのか」ということ。持続可能な循環型社会の実現、再生エネルギー、環境への意識、などなど。そういったことに向けて、ap bankも一時はその役割をずいぶんと果たせたんじゃないかなという気持ちもあったんですけど、一方で例えばいま現在の地球環境そのものをみると残念ながらあの頃からみてもさほど好転はしていないんですよね。

江守

そうですね。ただ、僕個人の意識としては「希望はみえている」という感じです。世界のCO2の排出量が圧倒的に減ったわけではないですが、ここ3、4年はほとんど増えてもいないんです。経済成長をさせながら排出量が増えないというのはすごいことです。

小林

僕らがap bankを立ち上げたころ(2003年)の状況でいえば、当時の中国やインドは先進国に対して「あなたがたがこれまでやってきたことが温暖化につながっているんだから、あなたがたが先に排出量を減らすべきだ。わたしたちはまだ豊かになる権利がある。」といったかんじでした。それがいまや中国もインドもパリ協定(※注1)にも合意したわけだから。

江守

国際社会が全体として排出量削減に合意したということは画期的でしたね。

小林

しかも中国やインドはいまや再生エネルギーや循環型社会などに対する舵取りにもすごく積極的な印象もあるくらいでしょう。自分たちの国の大気汚染をはじめとする環境破壊もその要因でしょうが、エコロジーとエコノミーが結びつくんだということを彼らが理解したことが大きいんでしょうね。

江守

ええ。いまや「環境への配慮」は「忍耐」とイコールではなくなりました。あとでまた話しますが、単純化していうと「CO2を出さないエネルギー」の方が「CO2を出すエネルギー」よりも安くて安定して豊富に使えるようになれば誰だってそちらを使うようになるわけです。まだ完全にそうなったというわけではありませんが、世界はそれを目指そうという方向に大きく舵を切っています。

小林

ただそれが日本だけはそうなっていない。

江守

ちょっと世界の空気が読めてないかんじになっていますね。

小林

まあその原因としてはやはり日本は東日本大震災が大きかったですよね。どうしてもあの頃は日本の誰もが脱炭素より原子力/放射能という問題に直面せざるをえなかった。それまで環境問題を扱っていた人のなかでも「まず原発(が問題だ)」と。なかには「地球温暖化なんてそもそも嘘だから石炭をどんどん燃やせばいい」なんて人も出てきてしまうくらいで……。そのうちにみんなだんだん何が正しいのかもわからなくなってきて、環境に対する考え方のなかに斑(ムラ)ができてしまったような状態でしたね。そしてその後のパリ協定の際も、壇上で日本の総理大臣(第二次安倍内閣)が誇らしげにアピールしたのはエコ石炭発電(※注2)でした。あれはホントに日本は世界から遅れてしまったんだなと痛感する話だった。

変わりゆくエコロジー最前線 江守正多 × 小林武史 対談<前編>
江守

高効率石炭火力発電の技術では日本が世界一なんですよ。つまりそこにずっとこの国は投資をし、努力もしてきたわけですね。なのでそういう思いや気持ちは理解するのですが、ただ残念ながら世界の常識は脱石炭に向かっている。それはもはや否定しがたいことです。

小林

石炭や石油関連の人たちを嫌ってるとかいうわけでもなく。

江守

僕は化石燃料産業の人にも幸せになってもらいたいですよ。化石燃料にもさんざんお世話になってきましたから、むしろありがとうと言ってお別れしたいです(笑)。ただ、脱炭素していくには化石燃料産業には化石燃料産業であることをやめていただくことにはなるでしょう。化石燃料産業に従事していた人たちが新たに総合エネルギー産業として再生可能エネルギーなどにシフトしていく、といった変化は必要です。

小林

世界は完全に脱炭素に向かってる。この流れは変わらない?

江守

大きな流れとしては、変わらないですね。何がどうあれもう変えられないと思います。

変わりゆくエコロジー最前線 江守正多 × 小林武史 対談<前編>
小林

ハイブリッド・カーが普及しだしたときもそうだったけど、エコノミーがエコロジーと結びつくとものごとが進むスピードが加速度的になるというのはありますよね。そのためのいろんな準備が新たな技術とともに揃ってきた、というのが現状だということですね。

江守

そうですね。かつての京都議定書(1997年)とパリ協定の間でじつはパラダイムが大きく変化しました(※図1参照)。なにがいちばん変わったかというと環境負荷を軽減するための「技術」です。再生可能エネルギーをはじめとするテクノロジーがその間にかつては想定できていなかったレベルにまで大きく進歩しました。京都議定書の当時にはまだそういった技術進歩が勘案できていなかったので「排出量削減=経済成長のさまたげ」でしかなかった。だから各国間で排出量削減目標を押し付けあっているような形でしたね。みんな「しょうがないから渋々減らしますか」というかんじで。

変わりゆくエコロジー最前線 江守正多 × 小林武史 対談<前編> 変わりゆくエコロジー最前線 江守正多 × 小林武史 対談<前編>
小林

それが今では逆に、環境ビジネスがいちばん経済成長が見込めるとまでいわれている。

江守

この技術の進化や変化を自分の国の「経済的なチャンス」にしようという考え方ですね。

小林

これはすごい進歩だと思います。

※注1 「パリ協定」2015年に採択された気候変動抑制に関する国際的な協定。196ヵ国が批准し、温暖化対策として歴史的な変換点とされる。

※注2 「エコ石炭発電」高効率化された石炭火力発電システム。数割は削減されるにせよCO2は天然ガス発電の2倍必ず排出される。

PROFILE

江守正多(えもりせいた)

国立環境研究所 地球環境研究センター副センター長。専門は地球温暖化の将来予測とリスク論。気候変動に関する政府間パネル第5次評価報告書主執筆者。ap bank設立当初からオブザーバーとして様々な意見をいただいている。

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