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VOL.8

2018.06.14

「食にまつわること」 ジェローム・ワーグ×原川慎一郎×小林武史<後編>
「食にまつわること」ジェローム・ワーグ×原川慎一郎×小林武史
ap bank fesではこれまでもサステナブルな未来のテーマのひとつとして”食”をフィーチャーしてきました。日々の営みすべての基本である”食”。ここでは、食と自然のより良いあり方をアーティスティックに提案しているふたりのシェフをご紹介します。食とアートのクリエイティヴな関係。おふたりには今年のフェス会場に設けられる「食とアートのエリア」に登場していただく予定です!

”食”は未来に向かうための根っこなんだ(ジェローム)

小林

<シェパニース>が掲げているサステナブルなコンセプトはap bankとしても共感するところがたくさんあるんだけど、ジェロームがそこを離れて何かをやろうと思ったのはどうして?

ジェローム

カリフォルニアでテック産業が盛り上がってきてね、街が急激に変わりはじめたんだ。それから街の住み心地があまり良くなくなってきたんだよね。

原川

<シェパニース>のヘッド・シェフは半年交代なんですよ。その休みにジェロームは毎回のように日本に来ていて、いっしょに日本の産地を回ったりしながら「機会があったら日本でもなにかやりたいな」なんて言ってたんです。

ジェローム

僕は昔から日本のカルチャーが好きだったんだ。大島渚の映画とかね。だから、日本へ来るたびに「もしかしたらここで骨をうずめることになるんじゃないか」なんて予感はしてた。カリフォルニアにずっと居続けるつもりもなかったし。

原川

そのころはちょうど僕も<シェパニース>のあとに目黒で始めた自分の店(※注1)が軌道に乗りはじめたくらいのときだったんですけど、日本では震災もあって僕自身もいろいろ感じていて。それで、なにか天啓みたいに「ジェロームが本気ならいっしょにやらない?」って僕が言ったら「おまえが本気なら来る」って。それが2年前ですね。

「食にまつわること」ジェローム・ワーグ×原川慎一郎×小林武史
小林

そこから縁があって去年のReborn-Art Festivalのオープニングはおふたりにも参加してもらいましたね。お客さんに参加してもらうラビオリづくりとパエリア(※注2)を企画してもらって。

ジェローム

あれは、地元の人たちといっしょにその土地の食材をフィーチャーしてなにかできないかなってところから考えたんです。みんなとつながるきっかけになるんじゃないかなと思って。

小林

牡鹿半島のいろんな食材を集めてもらってね。直火のライヴ感もすばらしかった。なにかすごく根源的なものを感じられるパフォーマンスだったと思います。

ジェローム

みんなで囲んで食べられたことも重要だった。生きることは食べることだから。食は未来に向かうための根っこの部分なんだよ。

「食にまつわること」ジェローム・ワーグ×原川慎一郎×小林武史
小林

本当にそうだね。そこから捉えていかないと、循環だとかオーガニックがなんだか肩苦しいものに思えてしまうから。

ジェローム

オーガニックも定義がいろいろあると思うけど、大きな意味では自然と共存できる方法を見出していくことなんだ。人間のベネフィット(利益)が他の生き物や環境にとってのベネフィットになること。

小林

それが今は経済にひっぱられすぎているところがあるからね。

ジェローム

そう。資本主義の都合に合わせて自然をコントロールするんじゃなくて、どう共存できるかってこと。もうこの地球に手付かずの場所はほとんどない。だったら、あらためてその手のかけ方を考えていかないと未来は健全に続いてはいかないだろうからね。

小林

ap bank fesではそういうことをこれまでもいろんな側面から取り組んできたけど、今年は会場のなかに”食とアートのエリア”というのを作ろうとしていて。そこではふたりにもぜひ参加してもらいたいと思ってます。

「食にまつわること」ジェローム・ワーグ×原川慎一郎×小林武史
原川

いま何をやろうかとジェロームとも話し合っていて、”種”を使ったものをやれないかなって考えてるんです。

ジェローム

”種”はすべてが繋がっていく象徴だからね。

小林

食とアートのわくわくするような試み、楽しみにしてます。

※注1 原川氏がオーナーシェフをつとめていた東京・目黒のビストロ「BEARD(ビアード)」

※注2 牡鹿半島・荻浜小学校で行われたReborn-Art Festival 2017のオープニングイベントで、ジェローム氏と原川氏によって企画されたパフォーマンス。観客とともに仕込んだラビオリや、直径2メートルのパエリアパンでパエリアが作られその場で提供された。

「食にまつわること」ジェローム・ワーグ×原川慎一郎×小林武史

写真:岩橋仁子

PROFILE

原川慎一郎

静岡県出身。フランス「La Madeleine」、三軒茶屋「uguisu」などを経て目黒に自身のレストラン「BEARD」をオープンし人気を博す。その後、ジェローム氏とともに環境に配慮した食材のオーガニック化をコンセプトにした会社<RichSoil&Co>を設立し、東京神田にそのコンセプトを体現するレストラン<the Blind Donkey>を出店。

ジェローム・ワーグ

仏パリ出身。米カリフォルニアの<シェパニーズ>の総料理長を長年にわたり務める。自然環境への深い洞察を元に、原川氏とともに<RichSoil&Co>と<the Blind Donkey>を日本でスタートさせる。

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