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VOL.3
2018.05.10
- 小林武史 × 櫻井和寿 2018年、「原点回帰」の意味 <後編>
- 写真:薮田修身 文:川口美保
- 今年のap bank fesのつま恋での開催は、2012年以来、6年ぶりとなり、ap bank主宰である小林武史と櫻井和寿は、このつま恋での開催を「原点回帰」という言葉で話す。 2003年のap bankの成り立ちからap bank fesのはじまりを振り返りながら、震災後に東北でスタートさせた「Reborn-Art Festival」があってこそ向かう、2018年のap bank fesへの思いを語ってもらった。
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いま、あらためて伝えたい地球や未来への想い
6年ぶりのつま恋での開催となるap bank fesはどのようなものになりそうですか?
小林ap bank fesの最初の頃は、地球温暖化をなんとかしなくては、という思いが多かったんです。ただ、櫻井くんも言うように、懐疑説も出てきて僕ら自身もわからなくなったところもあって、しかも日本では放射能という問題が出てきたから、CO2よりも放射能の問題が圧倒的に強くなっていって見えなくなっていったんですよね。だけど、地球環境の問題は、それがあったからといって問題がなくなったわけでもないし、普通の人が日常の中で感じている異常気象も世界的に起こっていることだけど、何が理由かはわからないけれど、昔とはずいぶん変わってきているという思いがあるんです。いずれにせよ、よくわからないから考えるのをやめてしまうということではないと思うんですよ。
前世紀の大量に生産して大量に消費して大量に廃棄してという、わりとやりっぱなしが許されていた時代から、今世紀に入ってニューヨーク多発テロの後に、坂本龍一さんたちと考えていったap bankのきっかけになることって、それぞれの地球に対しての想いやサスティナブルな未来への想いを共振したり、共鳴していくことは大切なことなんじゃないか、という思いだったんです。
もちろん環境問題に対してはいろんな意見がありますし、こっちが正しいですと言うつもりはまったくないんだけど、僕はあえて、原点回帰をするという今年、2018年に、少なくとも、どうなっているのか、どういう考えがあって、それはどういうことなのか、ということを、もう一回伝えていきたいと思うんですよ。みんなに知ってもらいたいし、知った方がいいんじゃないかという思いもあって。
櫻井小林さんからその話を聞いた時に、ひとつの円の中に、いろんな考えがグラデーションのようにあるイメージが思い浮かんだんですよ。たとえば、並列、直列、と、白があって赤があってって並べていくと、そのひとつひとつは違うものだけど、そうじゃなくて、ひとつの地球という円というと安っぽいけど、ひとつの丸いグラデーションで、白と黒もどこかでつながっているというか、またはもっと曖昧な部分というのがいっぱいあるという。あと、小林さんの意見と僕の意見も違っているものもあって、たとえば、僕は地球温暖化というのは、気持ち的には寒冷化に向かっている説に傾いているんですよ。でも傾いているからといって、じゃあそっちの方に進んでいこうとも思わない。温暖化というのもあるだろうと思っている。それもあるだろうと、つねにゆらいでいたいんです。一番嫌なのは、立ち止まってしまうこと。考えることをやめてしまうこと。つねにゆらいでいくということが、円の中でいろんな色の中で、あんなこともこんなこともって考えて、赤も正解なんじゃない? 青も正解なんじゃない? 白? 黒? って悩んでいくことが、地球の中で生きているということなんじゃないかという考えなんです。
だから、最初のap bankというのは地球温暖化というものをみんなで考えていこうよ、というものだったけれど、今年のそれはもっと違うものになっていて、もうちょっと相反する意見みたいなのも見せながら、聴いてもらいながら、みんなでゆらいでいくというひとつの一体感が出せればいいなと思うんです。
小林もともと未来や地球というものの中に僕たちは確かに生きていてね、明日を思う気持ちや、未来になんらかの責任というものを持っているんだという思いは、みんなが感じていることだと思うんです。それぞれ価値観が違っても、その思いを共振していったり、共鳴していったりしようというのがap bankの立場だったし、震災後のReborn-Art Festivalも、アートという振り幅の広い、人によってどんなふうに受け取れる、自由に感じていけるというものを選んでいったのもそうだし。
だけど、櫻井くんが言うように、思考停止になるのは怖いことだと思うから、いろんなことを知ってもらうということを、ap bank fesやその前後のウェブなども通して、みんなに「なるほど」とか「そうなんだ」とか、いろいろなことを思ってもらえるものを用意していきたいなと思ってはいますね。ap bank fesが織り成すハーモニー
櫻井最近僕がすごく印象に残った言葉があるんですよ。「正義の敵は悪ではなくて、相手側の正義だ」という言葉なんですけど、それすごく沁みて。それって、音楽をやりながらなんとなく感じていることで、それぞれ違った楽器だし、違った人だし、違った人格だし、だけどそれを否定するのではなく認め合うことで別のハーモニーが生まれてきたりする。ap bank fesでやっていたことも、Bank Bandがやってきたことも、そのジャンルの、その歌のスペシャリストが集まって、でも認めながら、共生していくというか、誰かを受け入れて認めていくということを、ハーモニーを生んでいくということを見せていたんだなということを、いま、感じました。
今年のap bank fesは様々な意味での「原点回帰」を感じることができそうですね。
小林今年は1日目は前日祭として、昼くらいからちょっとゆったりしたペースでやりたいなと思っているんです。料金も少し下げて、もっと近しいコミュニケーションが生まれるようなことを話し合っています。食を含め、いろんな知ってもらうためのエリアやブースがあったり、ap bankらしい始まり方をする前日祭にしたいなと思っていますね。2日目、3日目は、たぶん、始まりからすごい、ある意味、集大成的な何か、音楽の力強いエネルギーが出るんじゃないかなっていう気がしますね。
それと、やはりこの何年間の流れでReborn-Art Festivalに辿り着いたというのはとても大きなことだったから、つながりを感じてもらうためにもReborn-Artのエリアもつくって、そこにアートとか食の体験を入れていきたいなという話もしています。作品もアイデアがあるんだけど、すごくポジティブな気持ちのものなんです。でもアートだから、いろんなことを感じると思うんです。それを楽しみにしていてほしいなと思います。櫻井さんはap bank fesをはじめて、Mr.Childrenだけの活動では感じ得なかった音楽の喜びを知って、それがまたMr.Childrenの活動にも反映されてきたとおっしゃっていました。開催メッセージにも「つま恋は僕を育ててくれた場所」とありましたが、つま恋についてはどのような思いを抱いていますか?
櫻井自分で曲を書いていて、新しく生まれてくる曲とかあるじゃないですか。そのフレーズのひとつひとつが、時たま、あ、これ、あの時あの人とap bank fesでカバーしたときのあの感じだ、と思う時があるんです。自分からわざわざDVDを見返そうとは思わないけれど、いちいち「あの時のつま恋の感じ」とか、「あの人とのリハの感じ」とか、「ステージで歌っている時のあの感じ」というのを、本当に、去年のことのように思うんですよ。僕にしたら、最初に組んだバンドがいまのMr.Childrenだから、童貞でひとりの女の人とずっといたような感じだったから、本当にいろんな体験をさせてもらったのがap bank fesなんですよね。だからとっても大事で、いまの自分をつくっている、とても大きなものですね。
だからまた今年、久しぶりにつま恋に戻って、新しく、その気持ちを味わえると思うととても嬉しいんです。