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VOL.11

2018.07.13

なかったことにならないアート深澤孝史 × 小林武史 対談
なかったことにならないアート深澤孝史 × 小林武史 対談
ap bankによる復興支援のひとつとして宮城県石巻市を中心に開催された総合祭<Reborn-Art Festival 2017>(リボーンアート・フェスティバル、以下<RAF>)。ap bank fes ’18では会場内にそのコンセプトを元にした”Reborn-Art VILLAGE”という食とアートのエリアが設けられるのだが、そこにはフードのブースなどとともに”仮設住宅”を使ったアート作品があるという。”Reborn FLOWER HOUSE(リボーンフラワーハウス)”と名付けられたその作品は果たしてどういうものなのだろうか。

”流れ”を持ってくることはできないかという想いがまずあった(小林)
普段は入らない路地に迷い込むような入り口(深澤)

仮設住宅を移設した作品ということなんですが、これは一体どういったものなのでしょう。

小林

作品の具体的な話をする前に、まず僕らがどこから来てどこに向かっているのかという話をしたほうがいいと思うんですね。そもそもは2011年に東日本大震災があって、その年で掛川でずっと続けていたこのフェスを中断した。そこからは、僕らだけじゃなくこの国のみんながさまざまなことを感じ、考えてきたわけですよね。

はい。復興支援へ注力すべきという判断からap bankは2012年の開催をもって一旦フェスの開催を中断していました。

小林

そこから現地で復興支援を続けていくなかで、新たな支援の形として去年<RAF>ができ、そして今年にはap bank fesとして6年ぶりに掛川に戻ってくることもできた。ただ、これは復興支援が完了したからでもなく、僕らがその在り方を考えるのを終えたわけでは決してないということなんです。

そこからの流れが今回のフェスにも続いている、と。

小林

そう。”原点回帰”というのはリセットということではない。実際に来年は石巻で2度目の<RAF>をやります。だから、6年ぶりに戻ってくる掛川でのap bank fesに、その”流れ”をなにか持ってくることはできないか。その想いがまずあったんです。

なるほど。

小林

もちろん(ap bank fesには)まず音楽があって、食もあって。じゃあアートでなにができるんだろう、というというところから相談したのが北川フラム(※注1)さんだったんです。

<RAF>の「被災地で芸術祭を」という発想には北川フラムさんからのインスパイアがあったというふうにも聞いています。

小林

震災前から、新潟の<大地の芸術祭>のような過疎化が問題とされる地域にアートを持ち込むことで化学反応を起こすということをやっていたのが北川フラムさんでした。初回の<RAF>を準備していたころも彼の考え方や業績からは多くを学びました。そして今回はキュレーターとして助言を仰いだわけです。

そのときにこの仮設住宅という企画自体が出たんでしょうか?

小林

フラムさんと話し合うなかでいろんなアドバイスやアイデアが出たんですけど、そのなかに「震災と共に生きてきたものを掛川に運ぶ」というのがあった。それはできるなら仮設住宅がいいんじゃないか、というところぐらいまでは話していました。そこからアーティストとして深澤さんの名前が挙がったんです。

作品を作るアーティストとして深澤さんはそのときどう思われましたか?

なかったことにならないアート深澤孝史 × 小林武史 対談
深澤

お話をいただいたときにはすでに仮設住宅というアイデアは出ていたんです。そのアイデアを聞いたときは、そうですね……やっぱり素材としてはものすごく難しいという思いはありました。石巻にあれば被災者の方が住んでいたものだとわかるけど、別の場所に移せばどこにでもある仮設プレハブにしか見えないので。

被災された方々が実際に住んでいたものなわけですからね(※注 移設されるものは石巻市で使用されていた1棟)。

深澤

非常に生々しいものですよね。でもそれを完全にキレイなものにして見せるのも意味が違う。ものすごく難しいバランスだなと。仮設住宅というのは建築としてもかわいそうな存在で、”残らないこと”を前提にしているものですよね。古民家なんかでも保全できるのはたいてい立派なものだけなんですが、仮設住宅の場合はそもそも残すつもりがない。

名前からして”仮”ですからね。

深澤

そうなると、そこにあった全てがなかったことになっちゃう。被災地の復興というのは概ね近代的な堅牢な街の作り方です。もちろんそれ自体が悪いというのではないんですが、それでも(震災が)なかったことにはならないわけですよね。

小林

現地に足繁く通っているとね、仮設から人が出ていくというのも「やっと」「良かった」という想いではもちろんあるけれど、そこにはまた別の不安があったりするということも見聞きしたり感じたりすることがあるんです。

それは仮設の先の未来が見えないという?

小林

震災から7年が過ぎて、支援や注目が引いていくということはある程度しかたないところもあると思う。ただそれに取って代わるものや先に繋がっていくものがまだ見つかっていない不安ということじゃないでしょうか。

深澤

だから僕としては、なくなることを前提にしたこの仮設住宅をどうすれば他の何かに繋がっていく種にできるか、その繋がりをどう作るのかということが課題でした。会場に来られるのは、ほとんどは音楽を楽しみにしてきているお客さんですよね。そのみなさんと、まったく別の次元からきた仮設住宅がコミュニケーションする際の、翻訳というか仲介のようなもの。それがこの作品と<RAF>の模索であり実践じゃないかなと思ってます。

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仮設住宅のアートというとどこかセンセーショナルな感じもするのですが、そういうことではないと?

深澤

美術を見るということには”他者と出会う”という側面があって。その”他者”というのは、自分とは関係のないものだったり価値観の違うものだったりもする。そういう”他者”との出会いを提供するのが美術だと思っています。ただ音楽フェスという場の雰囲気はおそらく華やかでポップだと思うし、共感しに来た場で孤独になって何かと対峙するというのもなかなか難しいとは思います。だから、なるべくゆるやかにすんなりと普段は入らない路地に迷い込むような入り口を作品として僕が作れたらなと思ってます。

小林

これは見たくないものを無理に見せるというものではないんです。でも、見たくないものだからなかったことにしていいというのでもない。ネガとポジは常に繋がってる。そういう想いから始まったものだから、ここからいろんなことを感じてもらえればと思っています。みなさんがここへ来て、どういうことであれ何かを感じてくれるのを僕も楽しみにしています。

深澤

僕自身が震災を境に大きな影響を受けました。みなさんは自分が目的にしていなかったものに出会うことになるとは思うけど、みなさんに繋がるよう願いを込めて作ったので足を運んでもらえると嬉しいです。

※注1 北川フラム アートディレクター/キュレーター/アートフロントギャラリー代表。<瀬戸内国際芸術祭>や<大地の芸術祭>など地域開催の芸術祭を日本に根付かせた立役者。

PROFILE

深澤孝史(ふかさわたかふみ)

美術家。1984年山梨県生まれ。
場や歴史、そこに関わる人の特性に着目し、他者と共にある方法を模索するプロジェクトを全国各地で展開。最近の主なプロジェクトは、漂着神の伝説が数多く残る町で、漂着廃棄物を現代の漂着神として祀る神社を建立した《神話の続き》(2017、奥能登国際芸術祭)、埋もれた地域の歴史を現代に結びつけ直すことで、市民の主権と文化の獲得を目指す《常陸佐竹市》(2016、茨城県北芸術祭)、お金ではなく「とくいなこと」を預かり運用する《とくいの銀行》(2011-、取手アートプロジェクトほか)など。

”Reborn FLOWER HOUSE”とは

美術家・深澤孝史さんの作品。石巻市で実際に使われていた仮設住宅を移築し、そのまわりに木材や風船を配して「作品」として展示します。「満開の花に覆われるようなイメージで、たくさんの風船がつけられていく家が石巻からやってくる」とは深澤さんのコメント。みなさんで風船を取り付けて、仮設住宅を彩ってください。参加いただいた方には花の種をお持ち帰りいただけます。

なかったことにならないアート深澤孝史 × 小林武史 対談

”Reborn FLOWER HOUSE”の製作には、Reborn-Art Festivalに支援いただいている住友林業株式会社のサポートをいただきました。 住友林業は東日本大震災以降、東北で様々な復興支援を行うなか、『Reborn-Art Festival』に対してもその意義に共感し、2年前から支援をしています。昨年はReborn-Art Festivalの拠点「牡鹿ビレッジ」にて、被災地支援につなげる想いから東北産材を使ったウッドデッキを整備いただいたり、芝生(希望の芝)を提供いただきました。(※希望の芝は被災地で新たな雇用創出につながるプロジェクトとして住友林業が支援をしているものです。) 今回も同様の思いで福島県産の杉材を Reborn FLOWER HOUSEの木組みに提供いただいています。

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(写真:牡鹿ビレッジ)

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