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VOL.1

2018.04.26

小林武史 × 櫻井和寿 2018年、「原点回帰」の意味 <前編>
写真:薮田修身 文:川口美保
小林武史 × 櫻井和寿 2018年、「原点回帰」の意味 <前編>
今年のap bank fesのつま恋での開催は、2012年以来、6年ぶりとなり、ap bank主宰である小林武史と櫻井和寿は、このつま恋での開催を「原点回帰」という言葉で話す。 2003年のap bankの成り立ちからap bank fesのはじまりを振り返りながら、震災後に東北でスタートさせた「Reborn-Art Festival」があってこそ向かう、2018年のap bank fesへの思いを語ってもらった。

ap bankの活動を支えるap bank fes

6年ぶりのつま恋でのap bank fes開催にあたり、まず、小林さんが開催のメッセージで書いていた「原点回帰」という思いについて教えてください。

小林

ap bankを立ち上げたのは2003年だったのですが、それは、世界のことや地球のことって、いろいろな問題でつながっているよね、ということを、2001年のニューヨーク多発テロの後に坂本龍一さんたちと話していったことがはじまりだったんです。

アーティストの影響力によって環境について訴えていこうとする活動「Artists’ Power」に参加されていたんですよね。

小林

そこでいろいろな勉強会をしていく中で、お金に価値が寄り過ぎていることで、いろいろな世界の問題が起こっているということもわかっていったから、僕らはあえて「お金」に足場をかけて、お金を循環させていく「バンク」を立ち上げ、ap bankという奇想天外なことをはじめたんです。それで、自分たちでお金を出し合うことから生きるお金の使い方をしていこうとap bankの活動がスタートしたわけですが、融資を続けていくことや活動を支えていくためには、資金が必要となるから、その活動資金をつくっていくために、音楽の箱を開けられないかなと櫻井くんに相談したのが、ap bank fesのそもそものはじまりだったんです。

それが2005年ですね。その年からap bank fesは、Bank Bandと参加してくれるアーティストたちとともに音楽を通して想いを共鳴していくとともに、そこでの収益をさらに環境のことに還元していくためのフェスとして続いてきました。

櫻井

最初は環境問題に取り組んでいたのですが、その問題のひとつであるCO2、地球温暖化の問題が本当はそうではないんじゃないかという説も出てきたりして、どっちが本当なのか、僕自身、わりとわからなくなっていったんですよ。ap bankとしても、また、櫻井和寿個人としても、どんなメッセージを投げかけていいかもわからなくなって、これはむしろ発信しない方がいいんじゃないか、ひょっとしたら間違ったことを発信しかねないなと悩んでいたんです。そういう時に東日本大震災が起こって、環境問題よりもむしろ一番優先すべきことがあるということで 、2011年のap bank fesからは東北の復興支援に向けた「Fund for Japan」という流れができたんですね。

小林武史 × 櫻井和寿 2018年、「原点回帰」の意味 <前編>

ap bank fes’11 Fund for Japan、ap bank fes’12 Fund for Japanを終えた後、3年間はap bank fesはお休みしていますね。

櫻井

お金の使い道が決まってないのに、また新たに興行をやってお金を集めるのはフェアじゃないと思っていたので。そこでの収益をどういうふうに使っていくかと考えた時に、それこそ日本赤十字にそのまま寄付した方がいいんじゃないかと思ったこともあったんです。だけど、やっぱりap bankらしい使い方、最初のはじまりである「Artists’ Power」という名前にもっともふさわしいものでありたいということをずっと思っていて。

小林

そんな時に、僕が越後妻有でやっている「大地の芸術祭」というのを観にいったことで、「Reborn-Art Festival」というアイデアが出てきたんです。東北への復興の想いからはじまって、Reborn-Art Festivalをつくっていくことが、結果、お金を使う場になっていきました。

東北でのReborn-Art Festivalを経ての実感

東北支援として、Reborn-Art Festivalの開催にいたった思いを教えていただけますか?

小林

音楽フェスって、やれて、2日間とか3日間の開催になりますが、大きな力に依存して復興するのではなく、中からそういうことができないかということをずっと考えていたんですよ。その時に、先達の地方の芸術祭なども参考にさせてもらいながらではありますが、東北で「アートと自然」が結びついて、いろんなケミストリーが起こっていくといいなと思いました。いろんな意味で未来に向けて循環していく効果があるんじゃないかと思ったんですね。

2016年から準備がはじまって、昨年の2017年が本祭でしたが、実際開催してみていかがでしたか?

小林

まだまだ上手くいかなかったこともたくさんあるんだけど、目の付け所は間違ってなかったなという感じがしていますね。昨年のReborn-Art Festivalは51日間の開催となったわけですが、みなさん、「自分たちの住む地域で行われるイベント」として捉えてくれているから、すごい追い風も吹くし、ぜひ続けてほしいという声も多いんです。実際、石巻市の中では、行政と商工会が一緒になって、自分たちでReborn-Art Festival石巻実行委員会をつくりたいという話も出ています。また、地元の漁師さんたちの中にも自分たちの場所にReborn-Art Festivalがあることを誇りに思ってくれていて、牡鹿半島につくった白い鹿のオブジェを漁師さんが海から見て、「あれをみんなに海から見せたい」というようなことを言ってくれたりしています。 牡鹿半島って本当に美しい場所なんですよ。あの場所の素晴らしさを意識してはじめたことだけれども、半島の自然の力が、いろんなものと結びついているという感じがするんです。

櫻井さんはReborn-Art Festivalにはどういうふうに関わられていたんですか?

櫻井

Reborn-Art Festivalは基本的に小林さんがベースで動いていて、僕は、その中で行われたReborn-Art Festival×ap bank fesに出演したという感じでした。

小林

でも櫻井くんもReborn-Art Festivalも見に来てくれて、いろんなアドバイスをしてくれたんですよ。ずいぶん参考にさせてもらいました。やっぱりフロントマンの視点で、伝わりやすいかどうかということを言ってくれましたね.

櫻井

ウェブサイトはもっとわかりやすい方がいい、とかね。

小林

他にも、別にアート自体のすべてがわかりやすい必要があるということではなく、むしろ捉え方として「防潮堤すら、いろんな現場の道具さえもアートに見えてくるといい」というようなことを言っていて、それは名言だと思いました。あれだけの震災があった後で、人間がいろんなことでやっていくということは、発信する側の想いとは違っても、受け手はどんなことからも感じていけるっていう。それが「What is Art?」という言葉にもなっていったし、櫻井くんらしいなと思いました。実際、Reborn-Art Festivalがなかったら、「What is Art?」や「こだま、ことだま。」は、生まれてなかった曲ですしね。

小林武史 × 櫻井和寿 2018年、「原点回帰」の意味 <前編>

自然の中でアートや音楽に触れることによって、いろんなメッセージを感じとるきっかけが散りばめられている素晴らしい芸術祭だっただろうなと思います。

小林

Reborn-Art Festival 2017×ap bank fesも、雨にたたられたにも関わらず、本当に最後まで盛り上がりましたしね。

Reborn-Art Festival のプレイベントとなった2016年の石巻港にある埠頭でのap bank fesも、2017年の51日間の開催となった本祭も、これまでにはない芸術祭として評価も高かったそうですが、やはりお金もかかったとのことですね。

小林

本当にゼロからの立ち上がりでしたからね。津波がやってきた場所の淵に立って、ゼロからつくっていくというひとつの表現だったから。もちろん興行ではあるけれど、それ自体がアートだったと思います。

櫻井

それを経て、昨年、Reborn-Art Festivalがスタートして、やっとひとつ終止符じゃないけど、何か辿り着けたという感じがしたんです。だから次にどうするかとなった時に、もう一度原点に戻ってみるという、今年はそういうイメージがありますね。

後編につづく(5/10公開予定)

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