ap bank fes '21 Online in KURKKU FIELDS

Live Report

ap bank fes ’21 online
in KURKKU FIELDS
特別版ライブレポート

10月3日に開催された無観客生配信ライブ「ap bank fes ’21 online in KURKKU FIELDS」のアーカイブに、Mr.Childrenのライブ映像を加えた“特別版”が配信された(10月17日(日)23:59まで)。

千葉県木更津市のサステナブルファーム&パークKURKKU FIELDSの野外ステージから配信されたライブには、音楽家の小林武史、Mr.Childrenの櫻井和寿を中心に日本のトップミュージシャンによって結成されたBank Band、 “Great Artists”としてKAN、Salyu、MISIA、宮本浩次、miletが出演。Mr.Childrenも4曲を披露し、“自分以外の誰かのためを想う=「to U」”をテーマにしたap bank fes ’21のメッセージと豊かな音楽を届けた。

最初の映像は、緑に恵まれたKURKKU FIELDSの全景。ピアノとストリングスによる穏やかな旋律とともに、2005年からはじまったap bank fesの過去の映像が映し出される。そこに聴こえてきたのは、「忘れられない人がいる どうしても会いたくて」というフレーズ。櫻井和寿がボーカルを取るオープニング曲「緑の街」(小田和正)だ。

さらに「Drifter」(キリンジ)では、小林武史をはじめとする凄腕のミュージシャンたちが質の高い、スリリングな演奏を披露。「はじまりました、“ap bank fes ’21”。無観客、配信ですけれど、カメラの向こうにたくさんの人がニコニコ笑顔でいて、しっかりと何かが届いているイメージでやりたいと思います!」(櫻井)というMCから、人と出会うことの素晴らしさを描いた「糸」(中島みゆき)を歌い上げた。

“Great Artists”の一人目は、milet。「稀有な存在だと思っていますし、これからどう成長していくか、楽しみに思っています」(小林)と紹介された彼女は、デビュー曲「inside you」と「なんてことのない日の美しさも尊いんだという思いで書いた曲です」(milet)という「Ordinary days」を歌唱。繊細さとスケール感を併せ持ったボーカルを聴かせてくれた。

  • milet
  • milet

続くSalyuは、2005年初年度から出演している「ap bank fesにとって、無くてはならないアーティスト」(小林)。“誰かのために生きていること/知らずにいたあなたと会うまで”というフレーズが刻まれた「風に乗る船」、そして、「先が見えない、得体のしれないものに向き合っているときでもありますけど、そんな中でも歌っていきたい、進んでいきたいという願いを歌った曲です」という言葉とともに披露された「THE RAIN」は、視聴者の胸にしっかりと届いたはずだ。

  • Salyu
  • Salyu

エルトン・ジョンを思い起こさせる派手な衣装をまとって登場したKANは、Bank Bandのベストアルバム「沿志奏逢 4」にも収録された「何の変哲もないLove Song」からスタート。さらに代表曲「愛は勝つ」の後、櫻井和寿とともに新曲「君のマスクをはずしたい」、KAN、櫻井がアカペラで声を重ねた「弾かな語り」も披露された。

  • KAN
  • 櫻井和寿(左)・KAN(右)

美しい田園の風景、野菜の収穫、搾乳、チーズ作りなど、環境、循環をコンセプトにしたKURKKU FIELDSの日々の営みを映し出した映像の後は、Mr.Childrenのステージへ。

「Mr.Childrenです! 戻ってきました、ap bank fes! ここに戻ってきた“ただいま”っていう気持ちと、それから配信をご覧のみなさんも、よくap bank fesに戻ってきてくれました。おかえりなさい!」「何が何でもこの曲をap bank fesの1曲目、Mr.Childrenとしてやりたいと思っていました」。

万感の思いが込められたMCとともに披露されたのは、「彩り」。“ただいま”“おかえり”をメンバー全員で歌い、顔を見合わせながら演奏するシーンを見て、“ミスチルが戻ってきた!”という実感を覚えた視聴者も多かったはず。特に“なんてことのない作業が/この世界を周り回って/何処かの誰かも知らない人の/笑い声を作ってゆく”というラインは、ap bank fesのテーマとも重なり、大きな感動を生み出していた。

「すっごく気持ちいいよ。こんないい天気、こんないい風が吹いて、幸せです。僕らだけが幸せになってもなんなので、めいっぱい、今観てるみなさんを幸せにしたいと思います」という言葉に導かれたのは、「HANABI」。桜井和寿のアコギと歌、生々しい強いグルーヴを生み出す鈴木英哉のドラム、アンサンブルのボトムを支える中川敬輔のベース、そして、楽曲に彩りを与える田原健一のギターが共鳴し、“何度でも君に逢いたい”というフレーズにつながる場面は、今年のap bank fesを象徴していたと思う。

さらに「I’ll be」で熱気に溢れたバンドサウンドを生み出し、「この風に、この空気にぴったりの曲をお届けしてお別れしたいと思います」と「口笛」をリラックスした雰囲気で演奏。心地よい日差しのなか、Mr.Childrenとして音を合わせることの喜びを味わっているメンバーの姿も心に残った。

  • Mr.Children
  • Mr.Children

ここからフェスは後半へ。再びBank Bandのメンバーが登場し、「ついにこの方をお呼びします!」(小林)と呼び入れられたのは宮本浩次。まずは「異邦人」(久保田早紀)のエキゾチックな旋律を情熱的に歌い上げる。「風に吹かれて」(エレファントカシマシ)ではカメラに向かって“Baby!会いたいぜ!”と叫び、「ハレルヤ」ではステージを降りてフィールドを駆け回り、「エビバデに幸多かれ!」と呼びかけた。さらに「悲しみの果て」(エレファントカシマシ)、「P.S. I love you」を力いっぱい響かせた宮本。真摯で切実なメッセージを全身全霊で伝える、圧巻のステージだった。

  • 宮本浩次
  • 宮本浩次

続くMISIAは、「アイノカタチ」からスタート。人を愛すること、思うことの本質を描いたこの曲が、夕暮れのKURKKU FIELDSに広がる場面は、音楽の豊かさ、愛おしさをダイレクトに示してした。

「今日、私もずっと観させていただいて、アーティストの思いがダイレクトに伝わってくるようでした」「みんなでこの状況を乗り越えて生きていこう、生きてるんだよ、一緒に!という思いが伝わってきました。私の思いも届けさせていただけたらと思います」という言葉に導かれたのは、「歌を歌おう」。歌うことの意味、歌の持つ力を大らかな美しいボーカルによって描き出してみせた。

  • MISIA
  • MISIA

最後は櫻井和寿。まずは「若者のすべて」(フジファブリック)を演奏した後、ap bank fesの意義について話し始めた。

「環境問題とか、震災復興、いろんなことを目指してきて。でも、やってることはずっと変わらず、自分以外の誰かのことを思って、集ったり、演奏している気がします」

そんな言葉を挟んで届けられたのは、「まさにBank Bandで演奏する意味、みんなで集う意味が込められている曲」という「奏逢 ~Bank Bandのテーマ~」。フィールドで観覧していたスタッフに「ちょっと立つかい?!」と呼びかける櫻井の楽しそうな笑顔も印象的だった。

ここからはap bank fesならではのコラボレーションが続いた。Salyuと一緒に歌った「MESSAGE -メッセージ-」では、自分を愛することの大切さ、幸せや生きることの意味を日常の風景とともに映し出す。そして「東京協奏曲」では、宮本浩次と櫻井の共演が実現。街並みも人も変わり続ける東京を舞台にしたこの曲を、宮本、櫻井が声をぶつけ合い、寄り添い合いながら歌うシーンはまちがいなくap bank fes ’21のハイライトの一つだった。

人生を歩むことへの葛藤、諦念を綴った「Reborn」(Syrup16g)を挟み、MISIAとともに「forgive」を演奏。二人の声が奏でる“歌よ響け/次の未来へと”というフレーズは、配信を観ている“オーディエンス”との一体感を生み出していたはずだ。

ラストはap bank fesのテーマソングとも言える「to U」。「本来ならこのフェスは、『よく来たね』からはじまって、次の曲を出演者のみなさんと歌うのが恒例。今回は原点に戻って、オリジナルの形でやらせていただきたいと思います」(櫻井)というコメント通り、櫻井、Salyuの二人でこの曲を披露し、ap bank fes ’21はエンディングを迎えた。

  • 櫻井和寿(Bank Band)
  • 櫻井和寿(左)・宮本浩次(右)
  • 櫻井和寿(左)・MISIA(右)
  • 櫻井和寿(左)・Salyu(右)

2021年、ap bankは積極的な活動を続けてきた。東北の大震災から10年の節目である3/11に放送されたTBS系音楽特番「音楽の日」とコラボレーション。8/11からは、震災の被災地である宮城県・石巻地域を舞台に2017年から始まった、アート・音楽・食の総合芸術祭「Reborn-Art Festival 2021-22」を開催している。また9/29にはベストアルバム「沿志奏逢 4」を発売。今年発表された2曲に加え、Bank Bandが志に沿って出逢い、奏で続けたオリジナル曲、カバー名曲、ライブ音源をまとめた本作は、結成18年の集大成だ。

そして3年ぶりの開催、初の無観客配信となった「ap bank fes ’21 online in KURKKU FIELDS」。Bank Band with Great Artists、Mr.Childrenが出演したイベントは、環境問題、震災からの復興などを掲げてきたap bankの理念を改めて示すとともに、コロナ禍を生きる人々に大きな力を与えることになるはずだ。

  • 小林武史(Bank Band)
    櫻井和寿(Bank Band)
  • 小倉博和(Bank Band)
  • 亀田誠治(Bank Band)
  • 河村“カースケ”智康(Bank Band)
  • 沖祥子(Bank Band)
  • Kayo(左)・小田原 ODY 友洋(右)(Bank Band)

Text:森 朋之
Photo:樋口 涼

「ap bank fes ’21 online in KURKKU FIELDS ―特別版― 」
2021年10月10日(日) 19:00〜10月17日(日) 23:59
Bank Band with Great Artistsライブアーカイブ + Mr.Childrenスペシャルライブ

Drone Shooting:中野幸英