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ap bank fes ‘06、セカンド・デイ。今も見渡す限りの晴天。灼熱の日差しに照らされ続けた昨日に比べると、心なしか気持ちのいい風も吹いていて、まさに完璧なフェス日和だ。
「予報だと、今日は雨が降るはずだったんですけど、最高の天気です! やっぱり僕たちの日頃の“なんちゃら”がいいからですね(笑)」
そんな櫻井和寿の第一声にフィールドいっぱいのオーディエンスから大きな歓声があがる。
今日も素晴らしい一日になりそうだ。

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ところで。ゴミの問題への取り組み、エネルギーの問題への取り組み、そしてeco-reso&workshopブースにおける「自然との共生」「持続可能なエネルギー」「地球市民」の3つのテーマをめぐる数々の催しによって、このap bank fes’06がフェス全体として大きなメッセージを発していることはご存知の通りだ。そして、それが決して一方通行なものではなく、見事にオーディエンスの意識に浸透していることは、ゴミ一つ落ちてないフィールド、そして参加者、スタッフすべての人が発している「優しさ」と「あたたかさ」から、会場に一歩足を踏み込んだ瞬間に誰もが感じ入るだろう。でもそれだけじゃない。このフェスが他のフェスに比べて「異なる」ところは他にもたくさんあるのだ。
開演前、そしてステージ転換中のフィールドはとても「心地のよい静けさ」に包まれている。フェスといえば、PAからのべつまくなしにステージとは関係のないSEが結構な音量で流されていたり、隣のステージからのリズムがドンドンドンドン漏れ聞こえてきたりするのが通例だ。でも、ap bank fesでは微かな音量で過去のあまり知られていない名曲(たとえば70年代のジョニ・ミッチェルの曲だとか)が風にのって流れているだけ。そして、ステージは一つだけ。一言で言うと、「これからステージで奏でられる素晴らしい音楽」にとても集中できる環境なのだ。これが、最近の選択肢の多すぎるフェスに慣れてしまった身にはとても新鮮に感じられる。
もう一つ。ここつま恋のフィールドの芝生は、間違いなく日本のフェス会場の中で最高の芝生だ。思わずセンターサークルとペナルティ・エリアのラインを引いてサッカーボールを蹴りたくなるくらい、柔らかくて適度な短さ。もちろん、芝生が剥げて土が露出しているところなんて見当たらない。どこにでも寝っ転がれる環境というのは、長時間続くフェスを快適に過ごす上で、とても大切なファクターだ。この大地の肌触りの気持ちよさには、ちょっと感動してしまった。

一日目と同様に、小林武史と櫻井和寿による「アンプラグド」なオープニングに続いて、櫻井の「うらやましくなるくらいの若さをもったバンドを紹介します!」というイントロデュースと沖縄民謡の調べとともにステージに登場したのは、ap bank fes初出演となるHYだ。

「うらやましくなるくらいの若さ」をもちながらも、既に4枚もの素晴らしいアルバムを世に送り出しているHY。でも実は、HYにとってMr.Childrenはデビュー前からメンバー全員の憧れのバンドだった(最初にバンドが集まって音を出したのはMr.Childrenの曲だったほど)。そのせいか、最初は少し堅さもあった。でも2曲目“そこにあるべきではないもの”を機にだんだんオーディエンスと一体になっていく。目の前に広がるつま恋の自然の素晴らしさを称え、ap bank fesの掲げた理念に深い共感を表明した上で演奏したこの曲には、沖縄の自然を守るためには何から始めればいいのかというHYの問題意識が生んだ曲だ。2年前のアルバム『TRUNK』に収録されていた曲だが、そういう意味で、彼らはもともと必然的にこのap bank fesの理念と共鳴していたバンドでもあるのだ。

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そして大きなサプライズが4曲目にやってきた。もともと3人によるツイン・ヴォーカル&ラップで成り立っている名曲“AM 11:00”に、4人目のヴォーカリスト、櫻井和寿が飛び入りしたのだ。「だからお願い 僕のそばにいてくれないか? 君が好きだから」というあの必殺のフレーズを櫻井が歌った瞬間、世代を超えた「ポップの奇跡」が巻き起こる。鳥肌ものだった。

鳥肌が立っていたのはオーディエンスだけじゃなかった。打ち上げの席でヴォーカル&ギター新里英之が興奮して話しかけてきた。「あの時の僕の顔見てました? 隣で櫻井さんが歌ってて、もうカチッコチになっちゃって! でも嬉しかったー!」。ドラムの名嘉俊は感慨深そうに今日のステージを振り返ってこう語った。「でも、今日は本当にいい経験になりましたよ。ap bank fesのメッセージには心から共感するし、自分たちのいつものオーディエンスよりも年齢層は高かったですけど、ちゃんとつかむことができたから自信にもなりました」
 
    1.トゥータン
    2.そこにあるべきではないもの
    3.canvas
    4.AM 11:00
    5.モノクロ

そしてBank Bandの登場。昨日同様、まずはBank Bandの楽曲を2曲演奏した後、最初にゲストとしてステージに招かれたのは、2年連続出演となるスキマスイッチの2人だ。

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「今年もまた会いに来ました!」と彼らが颯爽とステージに現れた途端、さっきまで快晴だったのに、急に雨が降ってきた。
「すいません! 僕らのせいです!」と潔くオーディエンスに詫びを入れる大橋と常田。すると横の櫻井から鋭いツッコミが。「日頃の“なんちゃら”がって言ったけど、どんな“なんちゃら”やってるんでしょう、彼らは(笑)」。苦笑するしかない2人……。
初っ端から必殺曲“ボクノート”で幕を開けたスキマスイッチのセットは、しかしサビの感動的な盛り上がりに呼応するように、感動的に雨が激しくなっていく。
歌い終わると大橋はポツリとこう言う。
「この歌、空は泣きやんでって曲なんですけど……」
常田がすかさずフォローする。

「ウチらが終わったら、すぐに雨止みますから!」。そして自慢のアフロヘアーを触りながら「なんか、だいぶ(髪に)影響が出てきた。湿気に弱いんです(笑)」
でもオーディエンスは雨の中、完全に彼らの「うた」に聞き入っている。ほとんど誰一人として、その場を離れる人はいない。そして、櫻井の「みんなジャンプしてノレるくらいのスピードで!」という号令とともに始まったのは“シーソーゲーム”! 「あの」イントロが鳴らされた途端、オーディエンスからは歓喜の悲鳴が上がった。しかもホントにスキマスイッチ&Bank Bandの“シーソーゲーム”は速いのだ。ジャンプしまくる2万人のオーディエンス。そして、櫻井本人を目の前にして、大完全に自分の持ち歌のように気持ちよさそうに大声で歌い上げる大橋。すっごい声量、それでいてとことん美声。まったくもって、すごいヴォーカリストだ。
 
    1.ボクノート
    2.ガラナ
    3.シーソーゲーム

それにしても。本当にスキマスイッチがステージから去った途端に雨がピタっと止んだのには、笑うしかなかった。
通り雨が過ぎ、涼しくて柔らかい風がフィールドを覆う。会場のコンディションは最高だ。

「素晴らしい男性2人組の後は、素晴らしい女性2人組です!」という櫻井の紹介でBENNIE Kの登場。
「ap bank fes初登場の上に、バンドの演奏でやるのは初めてなんで、メチャクチャ緊張してます」と言って始まったのは“Dreamland”。いやいや、ステージでは緊張してるのかもしれないけど、聴いてる側にしてみればバンドで演奏されるBENNIE Kの楽曲はメチャクチャ新鮮! 彼女たちのポップ&ヒップホップな楽曲のスパイスとして効いている「ロック」が前面に出て、楽曲の持つダイナミズムがよりダイレクトに伝わってくる。櫻井も一緒に歌いまくりで、会場は完全にパーティー・モードに。
そんなハイテンションのままBENNIE Kの2人が3曲歌い終えてステージを去った後、「さんざんかき回して、帰っていきましたね(笑)」と櫻井。いや、あなたも十分かき回してました。
 
    1.Dreamland
    2.Sky
    3.サンライズ

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小林武史(Key)、櫻井和寿、小倉博和(Gt)、そしてストリングス隊だけが残ったステージに招かれたのは、ap bank fesの歌姫Salyuだ。今年も3日間連続して出演する彼女だが、昨日のステージでさらなる自信をつけたのか、愛くるしいほどの満面の笑みでステージに上がると、その歌声だけで堂々と会場を「別世界」に連れて行ってくれた。
そして一青窈の登場。彼女もまた、昨年同様3日連続出演するアーティストだが、もはや「ゲスト」としてではなくこのフェスの「メッセンジャー」として、真摯にメッセージを発しているその姿は思わず「勇敢」と呼びたいほど凛々しかった。会場の誰もが目に涙を浮かべていた「あの名曲」の熱唱の後、「このフェスのために、この曲をつくりました」という新曲を披露。彼女にとってこのap bank fesが「活動」にとって重要な場所というだけでなく、「表現」にとってとても大切な場所になっていることがひしひしと伝わる楽曲だった。

そのまま一青窈はステージに残り、やがてSalyuも戻ってきた。
(その後も、何度もコーラスでステージに再登場したSalyuと一青窈。彼女たちはもはやBank Bandにとって欠かすことのできないミューズなのだろう)
彼女たちをコーラスに従えて、櫻井がメインヴォーカルの場所に立つ。
ジャパニーズ・ロックの「クラシック」と呼ぶべきあの曲が、オリジナルへのリスペクトとともに忠実に演奏された。櫻井にとって、「あの曲」がどれほど大切な曲なのかがわかる熱唱だった。
一青窈の「このフェスのための新曲」。そして櫻井にとっての「あの曲」。このap bank fesの素晴らしいところは、アーティストたちが何の躊躇いもなく、自分の中の最も大切な場所にあるものをさらけ出すことができるところだ。そういう空気が、この空間にはある。

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「この人の歌を初めて聞いたのは、僕が小学生の頃でした。最初に声だけ聴いたときは、女性だと思ってました(笑)」という櫻井の告白とともにステージに上がったのは、日本で最も美しい声とメロディを持つ50代(というか今年59歳! 信じられない!)小田和正だ。
まずはなにはともあれセットリストを。
 
    1.ラブストーリーは突然に
    2.伝えたいことがあるんだ
    3.愛を止めないで
    4.言葉に出来ない

凄まじいまでの名曲のみだれ打ち。そして、弾けっぷり。“ラブストーリーは突然に”では、ステージの袖から袖に走るだけじゃ飽き足らず、いきなりステージから飛び降り(その後、自力でステージに登れないというご愛嬌も)、櫻井が思わず「打合せにないんだよなあ(笑)」とグチる場面も。曲の合間に喋ったら喋ったで、その一言一言が会場に笑いの渦を巻き起こす名話芸っぷり。それでいて、いざ歌が始まったら空気が切り裂けるほどのエモーションとセンチメントを放出してしまうのだから、もう反則だ。
「本当はミスチルの歌をここで歌いたかったんです」と言って“Tomorrow Never Knows”を歌いだすと、たった一小節だけなのに会場全体からは大きな感動のため息が。「いや、だって小田さん、“愛を止めないで”の代わりに僕らの曲を歌うって言うんですよ」と、櫻井からはセットリストを決める際の暴露話まで飛び出した。
最後はオフコース時代の“言葉に出来ない”。ラーラーラー ララララー……。はい。もう言葉に出来ないほど感動してしまいました。

小田和正の熱演を終え、「何年も何年も音楽を愛してないとできないような演奏の後ですが、今度は僕の友達を呼んで勢いだけでいこーかな!」と櫻井に呼び込まれて登場したのはGAKU-MC。二人してオーディエンスにボールを蹴り込み、もう会場は完全に無礼講状態。何故か後ろではSalyuが巨大な水鉄砲を撃っている。曲の途中、先日のワールドカップ決勝に触れて「頭突きするのはダメ!」とGAKU-MC。その通りです。

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そして次にステージに上がったのはASKA。「また素晴らしい歌を聴かせてくれる先輩です。(オーディエンスに向かって)すげえぞ! もってかれるぞ!」と櫻井。
ASKAがBank Bandのストリングス隊を従えて、これ以上ないほどの情感を込めて“君が愛を語れ”を歌い始めた瞬間、今日、この日のap bank’06の裏テーマが何だったのかを悟った。
きっとそれは、「声」だ。
日本を代表する「声」の持ち主、ASKA、小田和正。若い世代のアーティストの中で「声」で果敢に勝負をし続けているスキマスイッチ、BENNIE K。そしてもちろん、3日間出演しているSalyuと一青窈。今日のap bank fesは、何よりも「声」の持つ力に圧倒される一日だった。ap bank fesは音楽のフェスであるのと同時に、メッセージのあるフェスだ。そして、メッセージを伝えるのは、いつだってまずは「声」なのだ。
ASKAはセット最後の曲となる“同じ時代”を歌う前に、こう言った。
「ちょっと照れるんだけど、本気で伝えたいことがあるんで、聴いてください」
そう。それが社会的なメッセージだとしても、ただの愛の告白だとしても、僕らがまず頼りにするのは「声」なんだ。ASKAの圧倒的な「声」は、そんなことを思い出させてくれた。
 
    1.君が愛を語れ
    2.はじまりはいつも雨
    3.晴天を誉めるなら夕暮れを待て
    4.同じ時代を

ステージに残ったBank Bandは再び小田和正を招き、この日だけの特別な1曲“生まれ来る子供たちのために”を演奏した。そして、最後の1曲を演奏して、全23曲、2時間30分にわたる喜びと驚きに満ちたライヴを終えた。
 
    1.生まれ来る子供たちのために

約30分のインターバルを経て、桜井和寿はMr.Childrenと共にステージに戻ってきた。2時間30分の熱演を終えたばかりなのに(あ、HYのステージにも飛び入りしてたからそれ以上だ)、表情はますます生気に満ちている。この場所にいることが、本当に心から嬉しく、誇らしいのだろう。
Mr.Childrenはものすごくさりげなくステージに現れ、ものすごくさりげなく演奏を始めた。でも、彼らの演奏している曲は全然さりげない曲じゃない。日本中の数え切れないほどの人が共に生き、共に過ごし、時に人生を切り拓くきっかけにしてきたはずの、曲の数々。
さっきまでステージに立っていたこの日のBank Bandは、数々のジャパニーズ・ロック、ジャパニーズ・ポップの「クラシック」と呼べる名曲を演奏した。そしてそれは、それらの曲の持つエネルギーの普遍性に改めて深く心を打たれる体験だった。そしてそれに続くMr.Childrenのライヴを見ながら感じたのは、僕らは今、まさにMr.Childrenというバンドともに、日本のロック、日本のポップの新しい「クラシック」が育つ過程を生きているんだということだ。いや、育つ過程だけじゃない。この日はそんな新しい「クラシック」が生まれる瞬間にも立ち会った。
「みんな最高!!! ミスチルも最高!!!」
そんな感極まった桜井の言葉を残して、Mr.Childrenはステージを去っていった。

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Mr.Childrenは一点の曇りもなく幸福そうだった。
オーディエンスも一点の曇りもなく幸福そうだった。
本当は「一点の曇りもない幸福」なんてないのかもしれない。でも、素晴らしい音楽と一緒に生きた時、人はそんな幸福が信じられるのだ。そして、その気持ちを胸に、明日からも生きていけるのだ。
最後。今日の出演者全員がステージに上がって一つの曲を歌った。
いろんなものが信じられるようになった一日だった。

宇野 維正(FACT

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